<信頼できる心臓外科医とは(11)>

 「スーパードクター」「名医」という言葉はよく見聞きされると思います。やはり、信頼できる心臓外科医は手術の技量に優れ、患者さんを確実に救う医師のことを指していると思います。それが名医と呼ばれるのでしょう。では、そのような名医は手術で失敗を1度たりともしたことがないのでしょうか-。

 失敗がない、ということは決してありません。「緊急手術で患者さんの状態があまりに悪く、手ごわいケースだった」とか、「心臓外科医としての自分自身がまだまだ未熟だった」などいろいろあると思います。しかし、名医となる心臓外科医は失敗を失敗では終わらせません。自分がうまくできなかった、満足する結果が得られなかったことをそのままにするのではなく、次に成功に変えることができるように努力します。“ここまで放っておいた患者が悪い”と口にする、思うような医師は絶対に名医にはなれません。

 なぜ患者さんを救えなかったのか、何が足りなかったのか、それを頭の中で常に無意識に考えていると、頭の中にたくさんの引き出しができます。すると、難しい症例に遭遇しても、手術中にポンと頭の中の必要な扉が開く。すると、失敗しない心臓外科医が誕生しているのです。

 そうなると、手術は自分の守備範囲の中に患者さんを引き寄せて行うことができます。こうなると絶対に失敗することはありません。ここはテニスと同じ。テニスもスーパースターほど相手がどんな球を打ってきても、自分の守備範囲の中で対応でき、勝利は初めから見えています。名医になる心臓外科医は経験を自分自身にフィードバックし、次のステップにする医師なのです。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)(おわり)