うつ病は社会構造の変化と密接する。「なんば・ながたメンタルクリニック」(大阪市中央区)の永田利彦院長はこう話す。

「先進国、発展途上国では産業構造の変化により、正規雇用から非正規雇用へ、貧困リスクの増加と格差が人々を巻き込んでいる。いわばリスク社会の到来によって起こった精神病理の変化により、不安障害やパーソナリティー障害といった新しい精神病理が出現したのです。こうした新たな精神病理には、新しい診断が必要です」

そもそも、その人のパーソナリティー(人格)や気質といったものは、従来の診断だけでは十分ではない。例えば社交不安症は、2015年DSM-5(米国精神医学会・精神障害の統計と診断マニュアル)で名称が変わり、単なる対人恐怖ではなくなった。

「幼少期の“怖がり”の気質が、親密な仲間関係を築くことから回避、その結果、対人相互関係への不安を強めて、社交不安症となることが分かってきました。しかし、この時点で受診にまで至ることはまれで、うつ病性障害や摂食障害になって受診に至ります」(永田院長)。

従来より摂食障害は食欲低下、過食、倦怠(けんたい)感、気分の不安定さ、焦燥感、集中力の低下、自己評価の低さ、罪悪感などの症状が、うつ病のような気分障害との類似性を指摘されてきた。永田院長によると、摂食障害に対して抗うつ薬の有効性が明らかになる一方、精神療法の効果には勝てず、欧米ではすでに抗うつ薬は、他に選択肢がない時に限定されるという。

そして、うつ病に併存するパーソナリティー障害の行き着く先は、ひきこもりとの指摘がある。結局、診断の難しさは、その人には合わない薬を飲み続ける誤診につながりかねない。永田院長は警鐘を鳴らす。

「均一的な治療は、効果が限定的で、多くの難治性うつ病が生み出されている。うつ病の背景にある精神病理という視点で、長期的に治療することが大切です」