「鼻毛が出てますよ!」。鼻の穴から傍若無人に伸びた「それ」を目の当たりにしたとき、冒頭のように指摘するのは、かなり勇気がいることです。でもそのまま言わずにおくと、気になって話が耳に入ってきません。そこで教えてあげると、特に男性はワイルドにそれを抜こうとします。しかし実は、その行為は、命に関わる可能性があるのです。

「たかが鼻毛で、何を大げさな」と思うかもしれません。でも、鼻毛のはえている場所は、脳に近いのです。鼻毛を無理やり抜くと、細菌によって毛根が炎症を起こし、化膿(かのう)することもあり、最悪の場合、細菌が脳まで達して命の危険が生じることも十分に考えられるのです。

また、無理に鼻毛を抜くと、においに対する感覚も鈍くなる場合もあります。

においを感じるのは、空気中の「におい成分」が鼻の中の嗅粘膜に付き、神経を通じて刺激が脳に伝達されるため「におい」を感じるのです。しかし、鼻毛を抜いた場所に炎症が生じ嗅粘膜がダメージを受けると、脳への刺激の伝達も鈍くなり、においに対して鈍感になってしまうのです。

また、鼻毛には外部からのほこりやハウスダスト、花粉などの異物を防ぐ「フィルター」の役割があります。つまり、鼻毛がなかったらそれらは自由自在に鼻から侵入してくることになります。鼻毛を抜いてばかりなどで低密度になると、気管支ぜんそくになる確率が44・7%、高密度な人は16・7%という調査結果もあるほどなのです。理論的には、鼻毛を抜いていると、風邪やインフルエンザになる危険性が高まると考えられます。

鼻毛は抜くのではなく、切るのが、正しい処理法です。鼻の穴の入り口近くからはみ出して、これ見よがしに自己を主張している毛の「はみ出し部分」だけを、ハサミの先が丸い鼻毛切りバサミで切るようにしましょう。

それにしても、女性で鼻毛が出ている人をあまり見掛けません。おしゃれへの意識の高さと、毛の太さや濃さは男性ホルモンによる影響が大きいため、目立つのは、男性のほうということになるわけです。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務める。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。