性の健康を専門に研究しているイギリスのゴーシュ教授は、積極的に性行為を行っている高齢者は認知症になりにくいという研究結果を発表しています。性行為によって脳への血流が増えること、さらにオーガズムを得ている最中は多くの酸素と栄養が脳に送られ、神経細胞が活発化するためというのがその理由です。

もちろん脳の老化は若いころから始まっていますから、高齢者だけでなく40代男性にも、予防効果として期待できるでしょう。

ポイントは「デュアルタスク」です。その意味は「2つのことを同時に行う」。認知症の予防には、たとえば2人組で「ジョギングしながらしり取りをする」「散歩しながら目の前の看板を英語に翻訳する」など、体を動かす有酸素運動と、脳を使う知的作業を同時に行うことが有効です。

性行為の場合は、前戯に時間をかける、常に新しい体位を追求する、サプライズ的なプレーを用意するなど、想像力を働かせて女性を喜ばせることを意識するとともに、汗をかくような有酸素運動をすることが、デュアルタスクになり、より高い予防効果が期待できることでしょう。

また、避妊具をつけていても、パートナーの体内へ射精したという満足感が脳の神経細胞を活発化させるため、しっかり射精することも予防効果を高めるためには重要です。とはいえ、注意点もあります。性行為が認知症の予防効果が高いからといって、義務的に行うのは効果も薄いですし、精神的なストレスにもなり、あまりオススメできません。

米プリンストン大学が実施したラットの実験においても、適度なセックスは神経細胞の成長を促すことが研究により判明しています。2週間にわたり、毎日セックスするグループとセックスの回数を2週間に1度と制限したグループに分けて比較したところ、毎日セックスしたラットの方が神経回路の成長が見られ、さらにストレスホルモンも改善されていたのです。

セックスは脳内にある海馬という部位の脳細胞の成長を促すとの研究があり、脳の中でも海馬は、記憶や学習をつかさどる場所ですので、この部分が活性化されると、物事を記憶する能力が抜群にアップするのです。

人間にとって、性的欲求は生涯にわたるエネルギー源であり、心身ともに若くあろうとする動機。いつまでも性欲を持ち続けること自体が、認知症予防につながるはずです。(おわり)

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務める。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。