前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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症状が軽ければ、まずは経過観察の措置が取られる前立腺肥大症ですが、治療を行うときに中心となるのは「薬物療法」です。最もよく使われる薬が「α(アルファ)1ブロッカー」です。この薬は、排尿にかかわる筋肉のよけいな緊張を緩める作用をもち、排尿障がいを改善する役割があります。

排尿するときには、尿道括約筋が緩むことで尿道が開いて、副交感神経からの指令で膀胱(ぼうこう)が収縮し、尿が排出される仕組みになっています。それが、肥大した前立腺により尿道や膀胱が圧迫され、これらの筋肉が過度に緊張。その結果、副交感神経からの「排尿せよ」の指令をうまく実行できなくなってしまうのです。

かたや、交感神経からの「(膀胱頸部=けいぶ=と尿道を)締めよ」の指令は、アドレナリンなどの神経伝達物質が放出され、筋肉にあるα受容体がそれをキャッチすることで伝わります。α1ブロッカーには、α受容体が神経伝達物質を受けるのをブロックする働きがあります。その原理を使って、交感神経からの指令を遮断することで膀胱頸部と前立腺部尿道を緩め、うまく排尿できるようにするのです。

このα1ブロッカーは、一般的に1日に1、2回の服用で1~2週間ほどで効果があらわれます。排尿をスムーズにするだけではなく、昼間・夜間の頻尿、尿意切迫感といった「過活動膀胱」の症状にも効果があります。ただ、すべての人に有効というわけではなく、およそ3分の1では効果が得られません。服用を中止すると、症状が再びあらわれる可能性もあります。

また、めまい(起立性低血圧)、射精障がい、鼻づまり、頭痛、眠気のほか疲れやすくなる、といった副作用があります。この薬の服用中、目の手術を受けると虹彩(こうさい=目に入る光の量を調節する部分)に異変が生じることもあり、注意が必要です。

α1ブロッカーと同様の働きをする薬として「PDE5阻害薬」があります。交感神経が過度に興奮し、緊張した状態にある膀胱頸部を改善するものですが、頭痛、めまい、錯感覚(さくかんかく=感覚が障がいされた状態。日常の刺激を不快と感じたり、刺激に無感覚になる)や発疹、紅斑(こうはん=毛細血管の充血により皮膚が赤くなる症状)などが副作用としてあらわれる場合があります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。