前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺がんのリスク要因には、どんなものがあるでしょう? まず、食生活。肉や乳製品、魚介類など由来の動物性脂肪やタンパク質、砂糖を多く摂取する食生活が影響すると言われています。また、肥満を抱えている人は、リスクが高くなるという報告もあります。さらに、前立腺の炎症が考えられます。ことに慢性の前立腺炎(前立腺が細菌などに感染することで炎症を起こす病気)は、長期間に及ぶことが多く、細胞ががん化しやすいとされます。

次に、前立腺がんが疑われるときの検査について、です。診断法の1つに、直腸から指を入れて行う触診があります。医師がゴム手袋にゼリーをつけ、人さし指か中指を肛門に挿入。習熟した医師ならがんがある程度大きければ、触診でがんの位置や大きさなどの情報を得ることが可能です。ただし、内腺(尿道周辺の移行領域)のがんの多くや外腺(辺縁領域)でも小さいものは触診だけでは感知できず、その発見率は20~30%といわれます。

「PSA検査(前立腺特異抗原)法」は、タンパク質分解酵素の1つで、前立腺炎、前立腺肥大症、前立腺がんなどの病気があると、血液中に遊離する酵素が増えます。がんは周囲の組織に広がるため血管との境が破綻しやすく、PSAは血液中に出やすくなるのです。このような理由から、がんがあると正常な場合よりPSAが顕著に増えます。

PSA値が血清1ミリリットル中に4ナノグラム以下なら正常とします。小さいがんではPSA値が4以下のこともあります。またPSA値4・1~10がグレーゾーン。10以上なら40~50%ががんとされ、骨転移の可能性も否定できません。

PSA検査で数値が高かったり、直腸診で前立腺の形状が異常で硬いなど、がんが疑われるときは、がん細胞の有無を調べる「前立腺生検」で、がんか否かを確定します。

この生検では、前立腺の辺縁領域に12~14カ所、針を刺し、細胞を採取、顕微鏡で観察します。針は直腸から刺すときと会陰部の皮膚から刺す場合がありますが、いずれも「プローブ」という超音波を出す機器を直腸に入れ、モニターで超音波画像で前立腺を見ながら行います。悪性が疑われれば、2~3回の生検を行いますが、3回の生検で98%のがんが発見できるとされています。なお、最近は「MRI」(磁気共鳴画像装置)で生検が必要なケースをかなり事前特定することができるようになりました。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。