前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前立腺肥大症や前立腺がんの患者さんが、治療中や治療後に最も悩まされるのが、「排尿」に関すること。つまり、「尿が出にくい」「頻尿」「尿漏れ」といった排尿トラブルです。

初期の前立腺肥大症では、急性尿閉(急に尿が出なくなる)や合併症になる可能性が低く、積極的な治療を行わず、経過を観察する策がとられますが、生活習慣の改善で症状を悪化させないための措置をほどこすことが大切です。

日常生活で気を付けるべきことは、水分のとり方です。水分摂取が多すぎると、頻尿や尿失禁につながります。そこで目安となる水分は食事以外に1日1~1・5リットルほどにします。水分といってもアルコール飲料やコーヒーなどカフェイン含有量の多い飲料には利尿作用があるため、飲みすぎは頻尿につながるため注意が必要です。さらに、アルコールには利尿作用に加え、飲みすぎると、尿意はあるのに尿が出ない「尿閉」を引き起こすことがあります。1日当たりの摂取の目安は、ビールなら500ミリリットル、日本酒で1合、ワインでグラス1杯程度です。

だからといって、排尿トラブルを恐れて水分摂取を過剰に控えるのもよくありません。自分にとって、適切な水分摂取の方法を確認することが求められます。「排尿日記」をつけてみることも一考でしょう。これは、1日の排尿の時間や1回の尿量(例・午前6時半=230ミリリットル、同9時半=50ミリリットルなど)、尿意(例・強い、普通、弱いなど)を記録するものです。併せて水分摂取の時間と量(例・午前7時=牛乳200ミリリットル、同10時半=水140ミリリットルなど)、さらに尿漏れなどの排尿トラブル(例・トイレ間に合わず少量、帰宅時に玄関で微量など)があったときも記録します。こうすれば、自分の1日の水分摂取と排尿パターンを把握することで適切な水分摂取量を知ることができます。

もう1つ、気を付けなければいけないのは、骨盤内のうっ血です。長時間座ったり、アルコールの過剰摂取で骨盤内の血行が悪化して、前立腺がむくんでしまうのです。長時間座る姿勢を取るときには、ときどき立ち上がるなど、体を動かすことです。ほかにも、便秘や下半身の冷え、薬などから排尿トラブルにつながることもあるため、注意が必要です。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。