本紙で前回、男性の泌尿器科の病気を説明してくれた、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟氏(59)が、「女性の頻尿・尿失禁」についてお話しします。日本女性の約2500万人もが、オシッコで困った経験を持っているというデータがあります。そのうち成人女性の約400万~500万人が尿失禁を経験、また頻尿に悩んでいる人も少なくありません。それでいて受診をためらう女性が多いことに、同氏は「我慢しないで相談して!」と診察を勧めています。

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頻尿や切迫性尿失禁の基本の治療法は「薬物療法」です。その幾つかを紹介しましょう。

まず「抗コリン薬」。排尿時は、副交感神経から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質が、膀胱(ぼうこう)の筋肉にあるムスカリン受容体(アセチルコリンを受け止めるもの)を刺激して、膀胱を収縮させます。過活動膀胱では、尿をためているときもこのアセチルコリンが放出され続けるため、膀胱が過敏に収縮してしまうのです。抗コリン薬はこのアセチルコリンの働きをブロックして、膀胱の過剰収縮を抑えます。膀胱の緊張を緩め、頻尿や尿意切迫感もやわらげるのでたくさんの尿をためられるようになります。

よく用いられる抗コリン薬には、ベシケア、ウリトス、ステーブラ、トビエース、バップフォー、デトルシトールなどがあります。

抗コリン薬が膀胱の収縮を抑えるのに対し、「β(ベータ)3アドレナリン受容体刺激薬」は、膀胱の筋肉にあるβ3アドレナリン受容体を選んで刺激し、膀胱を緩ませます。これにより膀胱の容量が大きくなり、尿をためる機能が高まります。頻尿や尿意切迫感も改善されます。

また、難治性過活動膀胱(行動療法と薬物療法を12週間以上続けても効果が不十分)のケースでは「膀胱鏡下ボトックス膀胱壁内注入療法」が、今年の4月から保険適用になりました。膀胱鏡で確認しながら、筋弛緩(しかん)薬ボトックス(A型ボツリヌス毒素)を膀胱の粘膜に注射して膀胱の緊張を和らげ、機能を改善。尿をためておく能力をアップさせる治療法です。注入手術は外来で局所麻酔でも可能で、副作用も軽度の排尿障害、尿路感染などで重篤なものは少ない利点がある半面、効果の持続が平均6~7カ月のため反復して注入を行う必要があります。

もう1つ「仙骨神経電気刺激療法」は、心臓のペースメーカーに似た小型の体内電気刺激装置を臀部(でんぶ)の仙骨に植え込み、排せつにかかわる神経に持続的に電気刺激を与えることにより、過活動膀胱の症状の改善を図るものです。刺激装置の植え込み前に、一時的(1~2週間)にテスト刺激で効果を確かめることができます。植え込み装置は長期間効果が持続できる半面、手術が必要なこと、電極装置などを装着するため、まれに感染、疼痛(とうつう)などの合併症が見られることがあります。こちらは、2017年に保険適用となっています。