北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏が、「ウィズコロナ時代」のロカボ(緩やかな糖質制限)について解説します。ロカボの語源は「Low(低い) Carbohydrate(炭水化物などの糖質)」。新型コロナウイルスとの共生で新しい生活様式が求められる中、食事に気を付けながら、毎日楽しく食べて健康になりましょうと、勧めています。

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メタボリックドミノは、生活習慣による肥満(内臓脂肪の蓄積)からドミノ倒しのように、食後高血糖、高血圧、高脂血症というメタボリック症候群に向かうという概念です。ところが、2018年にハーバード大のグループが「なぜ人は太るのか」について新しい概念を提唱しました。肥満が食後高血糖の上流にあるのではなく、食後高血糖の方が上流にあるというのです。

肥満が上流にあるのであれば、糖尿病の人は痩せたら高血糖が是正されなければいけないはずです。あるいは肥満のない糖尿病は起こらないはずです。日本人は典型的ですが、太らないまま糖尿病になる人はいっぱいいます。欧米人の場合は基本的に太ってから糖尿病になりますが、太った糖尿病の人たちを2カ月間、1日700キロカロリー以下という厳しいカロリー制限で20キロ減量させるというすさまじい研究があります。確かに一部の人は血糖が改善したのですが、残りの人たちは改善しませんでした。

食後高血糖が先にあるとするハーバード大のグループは<1>糖質を摂取すると、血糖値が上がり、それを抑え込むため、インスリンが大量に出る。インスリンがまず肥満をつくる<2>血糖値が急に上がり、インスリンによって急に下降する「血糖値スパイク」によって「このままでは下がり過ぎるのでないか」と脳内で警告が働き、満腹感が打ち消され、飢餓感が起こる<3>その結果、おなかがすき、何か食べたくなってエネルギー摂取過剰を生む<4>エネルギー摂取過剰でさらに肥満が進む、としています。

糖質さえ控えれば、タンパク質や脂質は満腹感が得られるまで食べていいロカボ(ゆるやかな糖質制限)は、血糖値の急上昇を抑えることができます。肥満をつくる「血糖値スパイク」を避けられるのです。

◆山田悟(やまだ・さとる)1970年(昭45)、東京生まれ。慶応大医学部卒。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、カロリー制限による食事療法の限界に直面し、ロカボを提唱している。「糖質制限の真実」「カロリー制限の大罪」(ともに幻冬舎新書)など著書多数。