「冠状病源」とは、新型コロナウイルスの端緒となった中国語表記です。医療現場の医師は、この病源をどう見たでしょう? 感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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まず、「コロナウイルスとは?」についてお話ししたいと思います。それは、端的に言うと、毎年インフルエンザの前に流行していた「風邪症状」を呈するウイルスです。だいたい9月から11月くらいでしょうか? 我々が「インフルエンザにはちょっと早いけど、念のため、(綿棒を突っ込む)インフルエンザ抗原検査をしますね」という状況を作り出す原因です。

ただし、同時期に「RSウイルス」や「ヒトメタニューモウイルス」(ともに気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症を引き起こすウイルスの一種)なども流行します。発症した患者の年齢層などで多少傾向はあっても、症状からこれらのウイルスを見分けることは難しいです。そして基本的にウイルスは「PCR検査」という手間のかかる遺伝子検査でしか証明できません。

「検査して3日後くらいに陽性でした(ただし、本当にそうであっても半分くらいしか検出されない)」と報告されても、多くの患者は家に帰っています。そしてPCR検査はその診断有用性と時間と経費(1件数万円)から、あまり広くは行われませんし、保険適用もされていませんでした。

さらにコロナウイルスをはじめ、多くのウイルス感染症には有効な治療薬もありません。ただし必ずしも重篤な症状に至らず、たとえ入院を要しても安静と酸素投与で多くは改善します。

コロナウイルスかどうかはわかりませんが、時折ウイルス性肺炎で重篤な方がいて、人工呼吸器で管理をされて改善するか、ごくまれに、重篤化されて亡くなる方がいるというのが流れです。

日本ではあまり検査しませんが、時折シンガポールや香港などで海外診療を受けた方が「マルチプレックスPCR」という16種類程度の病原体(インフルエンザを始めコロナウイルスやマイコプラズマを含む)の網羅的PCRの結果を持って来て、「私は、◯◯ウイルスでした」などと話されます。費用も数万円と高額で、病院の検査として採用するわけにもいかず、悔しい思いがしました。

その中で2人ほどは、季節性コロナウイルス陽性の方もいましたが、せき症状が残っている程度で、鎮咳去痰薬(ちんがいきょたんやく)で対応、という流れでした。

 

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として血液内科・院内感染対策・総合診療に従事。各病院で院内感染管理医師を務める。今年3月から現職の河北総合病院血液内科副部長。趣味は喫茶店巡りと古文書収集。特技はデジタル機器修理。