世界的な感染拡大が続く新型コロナウイルス。未曽有のパンデミックに緊急事態宣言も発令され、社会のあり方が大きく変化している。他者とのコミュニケーションのあり方も大きく変化し、終息も見通せない重圧が続く。メンタルヘルスへの影響も懸念される中、「コロナうつ」との言葉も生まれた。長期化する「新たな生活様式」の中での「心」の問題とは。市ヶ谷ひもろぎクリニックの渡部芳徳理事長に聞いた。

   ◇   ◇   ◇

1月22日の厚生労働省の発表によると、2020年の自殺者数は11年ぶりに増加し、2万919人でした。男性は1万3943人で前年よりも135人減ですが、女性は6976人で前年よりも885人増加。男女合わせると、前年より750人も増えました。極めて大きい数字です。厚労省は自殺者の原因・動機の分析を行っています。それによると、コロナ禍による経済的影響や生活環境の変化、外出自粛や学校の休校などが大きく影響していることが考えられます。

精神神経学会などはこの状態を予測し、早い時期から「注意しましょう!」と声はかけていました。しかし、多くの精神科医は、増え続ける数字を見て、びっくりしているのが正直なところです。昨年の4月16日には緊急事態宣言が全国に拡大。それがあって4、5、6月はコロナ自粛の影響で、精神科や心療内科への受診者は減少しました。もちろん、これは多くの診療科でも同じでした。

ところが、私どもの精神科では自殺者が急増した昨年10月から、外来の患者さんが増え始めました。その患者さんの多くはほぼ同じような言葉を口にされました。

「いつも気分はまあまあなのですが、どうしてか、ここにきて気分がふさいでしまって…。何か変なのです」

コロナ自粛で外出が極端に減るといった環境の変化は、ごく短期間であれば問題はありませんが、長期化すると、自然と不調に陥ってしまう。それが「コロナうつ」なのです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆渡部芳徳(わたなべ・よしのり) 1963年(昭38)東京都生まれ。山梨医大卒、福島医大附属病院神経精神科入局後に米国デューク大学神経科学研究センターに留学。現在は市ヶ谷ひもろぎクリニック理事長。精神科医、医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医、東京有明医療大学客員教授、東京医科大学客員准教授。