がんは、“早期発見・早期治療”と言われています。早期に発見するとすぐに手術を行うことで、多くは完治します。手術を行うのは、がんをすべて取りきったかどうかが、手術時点でわかるからです。

ところが、前立腺がんはすぐに手術をしないといけないということはありません。前立腺がんの悪性度によって対応を考えます。がんの組織を採る「生検」を行い、悪性度を見る評価があります。それが「グリーソン・スコア」。これは2~10までの9段階に分かれています。「2~6」は悪性度の低い“低リスクがん”、「7」の悪性度は“中間”、「8~10」は悪性度の高い“高リスクがん”です。

低リスクがんはあまり転移しない、おとなしいがんで、低リスクの多くは6です。グリーソン・スコアの理論上では2~4の患者もいるはずですが、病理医が点数をつけると2~4はないのです。5の人もほとんどいません。6の場合は、経過観察することができます。8~10の悪性度の高いがんであれば、リンパ節や骨などに転移を起こしてしまうので治療が必要。また、術後再発といったことも見られます。ただ、悪性度の高い前立腺がんであっても、早期に発見すると手術で治ります。

逆に、グリーソン・スコアが6の低リスクがん、もしくは中間の7であっても、MRI(磁気共鳴画像装置)検査でがんがはっきりと写っている場合、すなわち、がんの容積が大きい場合は、経過観察ではなく積極的な治療をお勧めします。

生検で刺した針の何本に陽性が出たかも参考になります。がんの容積が大きい場合は、今後悪性化していくがんであることが予想できるからです。治療の選択は、十分に主治医と話し合うことが重要です。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。