前立腺がんには、悪性度を知る「グリーソン・スコア」のあることを前回紹介しました。男性ホルモン(テストステロン)の値の低い人は、悪性度が高い。一方、男性ホルモンの高い人は悪性度が低いことがわかっています。

このように話すと、「男性ホルモンが高い人は前立腺がんになりにくい、ということもあるのでは?」と質問されることがよくあります。しかし、残念ながらテストステロンが前立腺がんの発症率に関係することはありません。

では、なぜ前立腺がんの悪性度にテストステロンが関係するのか--。細胞のDNAの修復機能というのがあります。テストステロンの高い人の方が、その修復機能がうまく働いていることがわかっています。だから、前立腺がんの細胞にキズが付いたとしても、テストステロンの高い人では、そのテストステロンがキズを修復してくれるのです。逆に、テストステロンが低いとしっかり働かない。キズついたがん細胞は放置され続けるので悪性度が高くなることを、私たちは研究報告を行いました。

今は前立腺がんの治療も進化し、前立腺がんの悪性度(テストステロンの高低度)、がんの状態をしっかり確認し、それに合わせた治療が選択されるようになっています。前立腺がんの治療には、ロボット支援手術を中心にした「手術」、小線源療法、IMRT、陽子線などの「放射線療法」、「薬物療法」などさまざまな治療が整っています。自分自身のテストステロンをしっかり認識して最適な治療を選択することが重要です。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。

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