前回は、乳がんが「ルミナルA」「ルミナルB」「ルミナルHER2」「HER2陽性」「トリプルネガティブ」の5つのタイプに分けられ、それによって使う薬が決まることを紹介しました。乳がんの治療薬は、大きく分けると「ホルモン薬」「抗がん薬」「分子標的薬」の3つです。薬別に有効な乳がんのタイプを知りましょう。まず、今回はホルモン薬です。

ホルモン薬が有効なのは「ホルモン受容体陽性乳がん」です。患者さんの70~80%はこのタイプです。

ホルモン受容体は細胞の中にあり、そこに餌としての女性ホルモンがつくことで、細胞が増殖するスイッチとなるものです。ホルモン受容体陽性乳がんとは、女性ホルモンがあることで増える乳がんです。だから、その薬には餌となる女性ホルモンを減らす薬と、スイッチが入らないようにする薬があります。女性ホルモンを減らす薬には、閉経前の女性には生理を止めて女性ホルモンが出なくなるようにする注射、閉経後の女性には脂肪細胞の中で作られる女性ホルモンを減らす「アロマターゼ阻害薬」があります。スイッチが入らないようにする薬は、先回りしてホルモン受容体に接着することで、女性ホルモンが接着できないようにする薬(タモキシフェン)が広く使われています。

手術の後に転移や再発を予防するためにホルモン薬を使用する場合、通常は5年間リンパ節に転移があるなど乳がんの状態が進んでいると、7年もしくは10年続けることをお勧めしています。

そして、薬となると誰もが副作用が心配になるでしょう。ホルモン薬の場合、副作用は比較的少ないといわれていますが、ゼロではありません。ほてり、のぼせなどの更年期症状が代表的ですが、個人差がかなり大きいため、あまり気にならない人もいれば、とてもつらい方もいます。そこで、副作用対策として漢方薬を使うこともあります。そのほか、ぬるめのお風呂にゆっくり入る、あるいはヨガなどが効果のあることも--。また、特にアロマターゼ阻害薬では、関節痛や骨密度が減ることもあります。つらい場合は、我慢し過ぎることなく主治医に相談しましょう。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)