乳がんの薬物療法で使われるのは、大きく分けると「ホルモン薬」「抗がん薬」「分子標的薬」の3つ。前回はホルモン薬を紹介しましたので、今回は抗がん薬を紹介します。

乳がんには5つのタイプがあり、その中で通常は「ルミナルA」以外はすべて抗がん薬が効果を期待されます。対象は「ルミナルB」「ルミナルHER2」「HER2陽性」「トリプルネガティブ」。では、なぜルミナルAだけには抗がん薬を使わないのか--。

ルミナルAは乳がんの中で最もおとなしいがん。だから、抗がん薬を使わなくても治りやすく、生存率が良い。抗がん薬は細胞分裂するところに作用するため、おとなしく細胞分裂が少ない細胞には効果を発揮しにくいのです。だから、ルミナルAのようなおとなしい乳がんでは、抗がん薬ではなくホルモン薬なのです。

抗がん薬と聞くと副作用を心配する方は多いでしょう。すべての薬には効果と副作用があります。薬の効果が副作用というデメリットを上回れば、その薬を使う価値があることになります。手術の前後に使う抗がん薬の場合は、再発を減らすメリットと副作用とをてんびんにかけて、使うかどうかを判断します。再発する確率がもともと低いおとなしいがんでは、そのメリットが少ないので不要となります。一方、再発する確率が一定以上ある場合は、抗がん薬のメリットが大きくなるので使った方が良いということになります。この場合2~3種類の抗がん薬を併用する形で使います。2週もしくは3週に1回の点滴を3~6カ月です。最近、内服の抗がん薬も再発予防としても保険適用となりました。

そして、副作用対策はかなり進んでいるので、抗がん薬も昔のイメージとは随分違ってきました。まず副作用の代表の「吐き気」に関しては、とても効果の高い吐き気止め薬が開発されたので、実際に吐いてしまうことはほぼなく、多くの患者さんは食欲がない程度ですむことが多くなりました。次に多いのが「脱毛」で、かつらは必須となります。しかし、最近は頭皮を冷却して血流を下げてから抗がん薬を点滴する方法(保険適用外)もあり、かつらがいらない、あるいはかつらが必要な期間を短くすることもできるようになりました。「白血球の減少」では抵抗力が落ちますが、白血球を増やす注射を使うこともあります。そのほか、副作用が出た場合は対策がいろいろあるので、主治医に相談してください。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)