「乳がんは早期発見であれば90%以上治る」ので怖くはない--。しかし、残念ながら再発したり、遠隔転移したりするケースもあるのです。

手術で対応できるのは、手術した場所に再度しこりが出てきたケースです。例えば、乳房のふくらみを残した部分切除をした場合、残した乳房の中にしこりが出てくることがあります。これを「乳房内再発」「温存乳房内乳がん」と言います。この場合、乳房全摘術を行うことで完治を目指すことは可能です。

ただ、他の臓器に転移すると全身に行き渡る薬での治療になります。乳がんの転移部位として、多い順にリンパ節、骨、肺、肝臓、脳。この場合の治療は、なるべく普段に近い生活を長く続けることのできることが目的となります。薬は、手術前後と同じようにがんのタイプ分けをして選びます。

遠隔転移は完治が難しいので、上手にがんと付き合っていくのが目標です。ただ、分子標的薬の進化により、例えばHER2陽性タイプで分子標的薬が効くと、転移がずっと消えている患者さんも出てきています。だから、遠隔転移でも治せる可能性は出てきています。

やはり乳がん自体の早期発見は大事。ただし、転移の診断に関しては、早く発見しても現時点では生存率が良くなるというデータはありません。肺転移では息苦しく、骨の転移では転移した部位に痛みが出ます。その症状が出てから検査をして転移の診断をしても、一生懸命転移の検査を受け続けても生存率に差はありません。だから、再発を早く見つけないといけないという強迫観念にとらわれないでください。大事なことは、乳がんを再発させないために「手術前後の薬物療法では主治医と二人三脚で治療に専念する」ことです。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)