イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した「パレートの法則」をご存じですか。

これは、「仕事の成果の8割は、仕事に費やした時間の2割の時間で生みだしている」「働きアリの2割が、8割の食料を集めている」という分布の法則。全体のなかで重要な役割を果たすのはたったの2割と、ぼくは解釈しました。

すると、人生の膨大な記憶も、日常のさまざまな決まり事も、大切なのは2割程度で、あとの8割は忘れてもいいのだと思えてきました。

<忘れる力は、大事なことを選び取る力>

ぼくは1歳8カ月のとき、訳あって見ず知らずの人の家に養子に出されました。そのころの記憶はもちろんありません。けれど、「ここが今日からお前の家。この人たちがお父さんとお母さん」と言われ、言葉では表現できなくても、感情的には大きな危機に陥ったと思います。でも、その危機を忘れられたからこそ、新しい父母を疑うこともなく育つことができ、今のぼくがあるのです。

22年のお盆に、実の母の仏壇に初めてお参りをさせてもらいました。

「母さん、産んでくれてありがとう 實」

自分の本に筆でサインして、母の遺影にお供えしました。心の奥深くの悲しみを、すべて忘れられた瞬間でした。

過去は変えることができません。けれど、過去にとらわれている自分を忘れることで、新しい生き方をはじめることができます。(終わり)