肝臓がんの手術は「開腹手術が中心」でした。それを「術中の手術ナビゲーション」と「ICG(インドシアニングリーン)蛍光法」の導入、加えて、外科医の手術手技の向上により、身体に優しい「腹腔(ふくくう)鏡手術」「ロボット手術」時代が到来しました。そのICG蛍光法を使うと肝臓の切除区域を同定できます。それを2008年に世界で初めて私たちが報告しました。どうしてそれができたのか、今回はそこを知って欲しいのです。

私の先々代の教授である草野先生が、ある学会で座長をされ、その時の題目は乳腺外科の話でした。その中に、「乳がんが最初にたどり着くセンチネルリンパ節を光らせるのにICG蛍光法が有用」という報告がありました。最初は消化管のセンチネルリンパ節も染められるか、ということで始めたのですが、私は肝臓外科医なので、「肝臓を染められるはずだ」と思ってやり始めました。

そのような思いが出たのは、ICGは肝臓の予備力強化として静脈に注射する方法は古くから行われていたからです。そして、ICGを静脈注射してそれが肝臓に入ると、肝臓は染められると思ったのです。東京大学の幕内先生がインジゴカルミンという色素を使って、肝臓がんの切除する領域を染め分けて正確な切除ができることを1985年に報告されていました。私は幕内先生の方法を応用すれば、ICG蛍光法で肝臓の切除する領域をはっきり染め分けることができると考えたのです。

肝臓がんは、肝臓の輸入血管(血液を送り込む血管)である門脈に広がりやすい。そこで、門脈に針を刺して、ICGを注入しました。すると、予定切除領域がしっかり緑色に染まったのです。これが分かったのが、2008年。実際に肝臓がんの切除を始めると、切除すべきところが緑に染まっていて、残すべき肝臓部分は染まっていませんでした。

肝臓のICG蛍光法は、実は「乳がんのセンチネルリンパ節生検」からヒントを得たのです。それによって、肝臓がんの手術はより安全になったと思います。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)