定位放射線治療の「ガンマナイフ」は、タイトル通り頭を切らずに脳の疾患を治すことができる治療です。前回は、ガンマナイフが適用となっている脳疾患を紹介しました。今回から、それらがどんな疾患で、ガンマナイフ治療がどのように行われているかを紹介します。

まずは「転移性脳腫瘍」-。これは、他の臓器にできたがんの脳への転移です。脳転移の原発がんとして多いのは、「肺がん」「乳がん」「大腸がん」の順。特に肺がんは、血液の流れから肺の隣の臓器が脳なので、脳への転移が多い。私たちが治療する脳転移の患者さんの60%は肺がんからの転移です。今日の状況は、がん患者さんの10人に1人が転移性脳腫瘍に罹患(りかん)していますので、決してまれなこととは思わないでください。

そして、早くに転移性脳腫瘍を発見してほしい。ところが、転移性脳腫瘍のリスクの高いがんに罹患した患者さんたちは、MRI(磁気共鳴画像法)などの画像検査でそれが見つかると大変ショックを覚えます。脳に病気が出ると自分が自分で居られなくなる、と思うのです。ただ、肺がん患者さんの場合は、脳転移が多いので主治医が脳の画像検査を考えてくれます。そのため、「まひや言語障害」「めまい」「視野障害」「けいれん」「頭痛」など、症状が出ていない時点で発見されるケースが多い。その段階であれば、ガンマナイフ治療は1時間以内の日帰りで終了。症状がないのは、転移性脳腫瘍が腫瘍だけで、浮腫もないからです。

転移性脳腫瘍は私たちが技術的に治すというより、患者さんががんに立ち向かうという気持ちが大事です。患者さんは転移性脳腫瘍だと死ぬと思っていますが、私は虫歯治療くらいにしか感じていません。「大丈夫」と伝えて一緒に頑張る、それが最も重要だと思います。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)