スアレスが投げる最後の場面、藤川球児はどんな思いで見ていただろう。見ていなかったかもしれない。いや球児なら見ていたと思う。そして再び闘志を燃やしていたと信じたい。

「(抑えの)大事なポジションなだけに、今の状態ではチームの力になれないので1日も早くコンディションを回復させられるように努めます」

そんなコメントともにこの日、球児が登録抹消された。記事にもあるように「コンディション不良」が理由だ。

同じ日、西武松坂大輔が手術を受けていたと球団から発表された。右手のしびれをとるための「脊椎内視鏡頸椎(けいつい)手術」だという。すでに退院して復帰までは2、3カ月かかる予定。今季中の復帰は可能らしい。

2人は同学年、いわゆる「松坂世代」である。以前「球児世代ではないのん?」と話を向けると球児は「いやいや。そんなん」と笑いつつ「だってホールインワンするところを2度も見てるんですよ。松坂が。やっぱり違いますよ。彼は。何か持ってますわ」と秘話を明かしてくれた。

今年、40歳を迎える2人が偶然にも同じようなタイミングで戦いの場からいったん遠のく。「不惑」というが山あり谷あり、40年を生きていればいろいろとあるだろう。そして球児はいま不調にあえいでいる。

それを承知で、ここまで指揮官・矢野燿大が抑えで起用していたのにはいくつか理由があると思う。投手陣の精神的支えとして期待する点、そして、やはり「あと5」と迫った日米通算250セーブの記録もあったと思う。

個人記録達成のために試合があるのではない。当然である。だが同時に個人の“尊厳”をまったく顧みないチームでは選手のやる気に影響する。プロ野球だけの話ではないだろう。

勝負と記録の間で悩む場面は過去にも見てきた。今回もひょっとしたらそうなるかもしれない。それでも球児は必要だと思う。苦労しながら球界を代表するクローザーに成長。大リーグにも挑戦した。さらに独立リーグでのプレーを経て、再び阪神で投げている。若い選手たちに苦労と意地とプライドを背中で見せる存在は意味がある。

ファームで藤浪晋太郎らに刺激を与えつつ、しっかりと調整し、再び1軍に戻って土壇場で投げてほしい。そう思っている。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対DeNA 9回表DeNA2死一、二塁、乙坂を遊ゴロに打ち取りセーブをあげるスアレス(撮影・清水貴仁)
阪神対DeNA 9回表DeNA2死一、二塁、乙坂を遊ゴロに打ち取りセーブをあげるスアレス(撮影・清水貴仁)