左膝が万全でない中、強行出場した西前頭9枚目の遠藤(24=追手風)は、東前頭10枚目の勢(28)に突き落としで敗れた。初めて大銀杏(おおいちょう)を結って大声援を背に臨んだが、復活を印象づける白星は挙げられなかった。

 左膝を締め付けるテーピングはない。四股は両足とも高く、歩く様も変わらない。知らない人には、けがしていることも気づかれなかっただろう。相撲を取るまでは。いざ迎えた取組。遠藤は押され、踏ん張れないまま突き落とされた。瞬間、真っ先に両手をついて、左膝を土俵に落とさないようにして右に転がった。

 花道を引き揚げる際、NHKアナウンサーの質問に「問題ありません」とだけ答えた。支度部屋では、初めて結った大銀杏を含む全ての問いかけに無言を貫いた。人前で膝を冷やすことも、ケアもしない。弱みは、見せなかった。

 春場所5日目の相撲で左膝の前十字靱帯(じんたい)と半月板を損傷した。全治約2カ月。師匠の追手風親方(元前頭大翔山)は「基本的には休む方向だった。万全にしてから出た方がいいと。2週間前までは休場を考えていた」。

 だが、本人は「出る」と、トレーニングと治療を続けた。話し合いの末、その意思が尊重された。けがからわずか59日の本土俵。師匠は「不安だが、出ると決めた以上、仕方ない。あとは15日間持つか、何番勝つか…。やらないと分からない」。祈る気持ちだった。

 北の湖理事長(元横綱)は「やっていけば慣れてくると思うが、稽古で10番取っても、本場所の1番は違う」と心配した。ただ、立ち合いで勢に、思い切り当たった。同じけがの経験を持つ琴勇輝は「当たれたのがすごい」と驚嘆した。残り14日。その先に何が待つのか。遠藤の、長い夏場所が始まった。【今村健人】