青森県中泊町出身の幕内阿武咲(21=阿武松)が16日、凱旋(がいせん)した同県板柳町の夏巡業で存在感を見せつけた。稽古で大関高安に指名されると、力強い立ち合いで圧倒。7番取って全勝した。新入幕から2場所連続の2桁勝利を挙げて、秋場所(9月10日初日、東京・両国国技館)では初めての上位戦を迎えるが「楽しみしかない」とうそぶいた。

 大関との稽古で際立ったのは、阿武咲の力強さだけだった。「中泊町出身」の場内アナウンスに、惜しみない拍手と大声援が送られた津軽りんご市場の会場。ホームと化した土俵で高安に全力で挑んだ立ち合いが、ことごとく通じた。突っ張り合いでも負けない。懐に入れば、低く鋭い圧力で前に出られる。7番取って全勝に「うれしかったです。足も良く動いていた。良かったですね」と喜んだ。

 実家にほど近い板柳町での巡業は、まさに凱旋(がいせん)だった。新入幕だった夏場所に続いて名古屋場所でも10勝した。新入幕からの連続2桁は、1場所15日制が定着した49年夏場所以降、7人目の快挙。過去の6人には横綱の初代若乃花や白鵬の名前もある。そんな快挙をひっさげてのご当所場所だけに「うれしいっすよ」と喜んだ。

 稽古後は、前日の青森市に続いて子どもとの稽古に登場して盛り上げた。自身もかつて、青森市巡業で元小結の高見盛らに胸を出してもらったことがあった。プロに胸を借りたのはそれが初めて。今も記憶に残る。今度は自分が子どもたちに思い出をつくってあげたい。「その思いがあります」と恩返しも兼ねていた。

 再会した恩師らからは「もっと上を目指せ」と言葉をかけられた。「そういう気持ちでやりたい」。秋場所は初めての横綱、大関戦を迎えるが「昔から、強い人とやるのが好きでした。楽しみしかないです」。将来有望な若武者は早くも武者震いが止まらなかった。【今村健人】