西前頭4枚目の正代(28=時津風)が夢の初優勝へ、また1歩前進した。平幕の松鳳山を強烈な右おっつけから寄り切って1敗を守った。「優勝争いの実感はない」と言うが、熊本県出身力士初の幕内優勝への期待は高まる。幕尻の徳勝龍も1敗を守り、10日を終えて平幕2人がトップで並ぶのは1972年(昭47)名古屋場所の豊山、高見山以来、48年ぶり。3人が2敗で追うが三役以上は大関貴景勝だけの大混戦場所で正代が「初」に挑む。

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根こそぎ持っていくようなド迫力だった。立ち遅れた正代だが、松鳳山を左からつかまえると右の強烈なおっつけから一気に寄り切った。「ケンカ四つなんでかみ合わなかったけど、よく反応できている」。宣言している「攻めの相撲」を貫き堂々トップを走る。

「優勝争いはまだ全然。実感がない。ここからの5日間が長いんですよね」。大きなことは言わない。しかし、帰り道も「熊本から来たんよ~」というファンに囲まれた。熊本出身力士で幕内優勝者はいない。正代は「いませんでしたっけ」と薄い反応だが、5月に東京五輪の聖火ランナーを務める。郷土は「初」の快挙へ熱が高まっている。

9日目に勝ち越しを決めた。外で食事して祝うことも考えたが部屋に戻った。「変に特別なことをしたら、感覚が狂うんじゃないかと不安になって。部屋で飯食ってゴロゴロしてました。1日が終わるのが早い」。自分のペースを崩さないが、「肉体的には大丈夫だけど、精神的にはだいぶ疲れている。注目され慣れていないんで」。余計なことはまだ意識しない。そんな心情を思ってか、師匠の時津風親方(元前頭時津海)は「勝ち越したから楽しんでこい」と声をかけた。

7連敗中と苦手だった貴景勝に勝って勝ち越しを決めた後、花道で思わずガッツポーズが出た。その姿はばっちり生中継。「あれはいかん。正直、反省してます。あそこにカメラがあるのを忘れてた。見えないところでやらないと」。謙虚な男が大混戦場所を引っ張る。【実藤健一】

◆主な熊本出身の力士 現役関取は平幕の正代と佐田の海の2人だけ。横綱輩出はなく過去には、土俵上での礼儀正しさが光った大関栃光、強烈な張り手から「フックの花」と呼ばれた関脇福の花、元小結普天王の稲川親方などがいる。

◆幕内優勝力士が出ていない出身地(国内) 宮城県、埼玉県、静岡県、岐阜県、福井県、京都府、滋賀県、和歌山県、島根県、徳島県、熊本県、宮崎県、沖縄県。ちなみに最多は北海道の13人で通算120回。