2場所連続全休中だった横綱照ノ富士(33=伊勢ケ浜)が、本場所で169日ぶり、両国国技館では実に351日ぶりの白星を飾った。取組前の対戦成績が8勝7敗と、得意とはいえない東前頭筆頭の隆の勝を寄り切りで倒した。苦しみながらも昨年7月28日の名古屋場所千秋楽、同じく隆の勝との優勝決定戦以来の白星で、1勝1敗の五分に戻した。国技館では昨年1月28日の初場所千秋楽、優勝決定戦琴ノ若(現琴桜)戦以来の白星。家族の前での復活星をかみしめた。
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まだ2日目ながら“背水の陣”の決意だった。わずか1秒1で敗れた初日とは一転、19秒3の大相撲の末に手にした今年初白星。照ノ富士は取組直後、風呂に入る前に大粒の汗を流しながら、この日の一番に懸けていた内心を明かした。
照ノ富士 今場所は自分の中で、やれることをやって「駄目だったら」という思いがあったので、1つ、自信になりました。今場所で自分の全てを出し切ってやりたいなと思っているので、後先考えずにやりたいなと考えています。声援も力になりましたし、今日は特に、お母さんと奥さん、子どもが見に来ていたので勝っている相撲を見せられて、よかったと思います。
呼吸を整えながら、一言一言、言葉を選んでいた。この日の一番に懸けていた思いの強さがにじみ出た。他に誰も関取がいなくなった、東の支度部屋は、勝ったものの重い空気だった。
薄氷の白星だった。立ち合いで難敵隆の勝にもろ差しを許す絶体絶命の展開。それでも右をおっつけ、土俵際まで押し込むパワーは健在だった。弓なりになった相手に右を差すと、左上手を取って形勢逆転。「今までの相撲を、もう1回、やってみたいという思いでした」。初日は若隆景に肩透かしで一瞬で敗れ、足腰の踏ん張りに不安もよぎらないわけがない。それでもつかんだ上手を最後まで離さず、腰を落として前に出た。優勝を10度まで積み上げた必勝の形、右四つを信じて力強く寄り切った。
客席ではドルジハンド夫人、2歳の長男照務甚(てむじん)くん、モンゴルから来日した母オヨンエルデネさんが見守っていた。最近2年間12場所で9度も休場する要因の両膝痛、糖尿病で、体は悲鳴を上げている。強い横綱の姿を、目に焼き付けてほしい思いがうかがえる。ただ7日の明治神宮奉納土俵入り後には誓っていた。「次は(優勝)11回目を目指して頑張りたい」。歴代10位に名を連ねる優勝で、横綱を目指す大関陣に、強い横綱像を示すつもりだ。【高田文太】

