置き去りにされたボストンバッグの大金を巡り、それぞれ尻に火の付いた登場人物たちが争奪戦を繰り広げる。

曽根圭介原作の「藁にもすがる獣たち」は5年前に韓国で映画化され、チョン・ドヨンら好キャストが集結して濃密なノワール世界を織りなした。とびっきりのワルだが、どこかワキの甘い登場人物たちに往年の東映映画に出てきた悪役のキャラクターが重なって見えた。

そして、ようやく日本版が25日に公開される。

ネットカフェでバイトする大学生の寛治は自称ユーチューバーだが、登録者数2桁の情けない状況だ。同居する祖母の認知症が進み、実は切羽詰まっている。そんな彼が忘れ物として1億円入りのボストンバッグを発見したことから、騒動に巻き込まれていく。「気弱な人間の出来心」がはまり役の鈴木央士から自然ににじみ出る。

近作に「名無し」がある城定秀夫監督は時系列を動かしながら、1億円の出どころをさかのぼり、バラバラと現れる登場人物たちをボストンバッグ目がけてつないでいく。

悪徳警官の成宮寛貴には、食わせ物の刑事、小手伸也が絡んでくる。ワケあり主婦にMEGUMI。彼女につきまとう男には前田征志郎がふんしている。若松了の親分には二宮隆太郎、青木マッチョという個性派の子分がいる。個性派ばかりのキャストが、そろって脂っこい演技を見せる。

裏社会を巧みに泳ぎ、キーマンとなる悪女を森七菜に当てたのが唯一の意外な配役だが、想像を超えてしたたかな雰囲気に説得力がある。トー横キッズにふんした「炎上」といい、今年の彼女は弾けている。

青木マッチョが大暴れする映画館のシーンは閉館直後の丸の内東映で撮影された。上映されているのは「仁義なき戦い」で、菅原文太の劇中シーンと映画館内の乱闘がリンク。作品を性格づけるオマージュになっている。

5年前の韓国版の記憶をたどりながら見ても、ハッとさせられる場面ばかりだった。巡り巡って寛治と祖母(風吹ジュン)に戻るフィナーレには爽快感があった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)