25日、女性議員研究交流大会に全国都道府県議会議長会会長として出席し、会場から引き揚げる福岡県議会議長の蔵内勇夫氏(撮影・江口和貴)
25日、女性議員研究交流大会に全国都道府県議会議長会会長として出席し、会場から引き揚げる福岡県議会議長の蔵内勇夫氏(撮影・江口和貴)

高額な海外出張や、正副議長職をめぐる金銭授受疑惑など、福岡県議会をめぐる問題が後を絶たない。先日帰省した際も、地元での話題はこの問題一色。正直、地元の県議会の動きにはこれまでほとんど関心を持たず、一連の問題が報じられて初めて気付かされた。

今回の問題で常に表舞台に登場していたのは、「福岡県政のドン」と言われてきた蔵内勇夫氏(72)。海外活動をいったん「海外旅行」と言ってみたり、今回の金銭授受疑惑問題でも常に名前が取りざたされてきた。福岡県議会を取材したことはなくても、蔵内氏が「福岡県政のドン」と言われているのは知っていた。「福岡県政には蔵内氏以外にも実力者と呼ばれる人はいるが、蔵内氏は別格」(関係者)と聴いたこともある。10回連続当選で約40年県議を務め、多くを無投票で当選してきた人物だ。

その蔵内氏は25日、これまでは否定したり、タイミングも「しかるべき時期」としてきた議員辞職に、同日をもって踏み切る考えを表明した。9月に定例議会を控える中で、だ。

蔵内氏をめぐっては17日の臨時議会で、自民党県議団幹部に多額の現金を払ったと証言し、「人の弱みにつけ込んだカツアゲ」などと告発した吉松源昭県議が提出した議長職の辞職勧告決議案が採決されるはずが、蔵内氏に近い県議による緊急動議提出で、事実上握りつぶされた形になった。福岡県政に詳しい関係者に話を聴くと、「『ドン』ともなれば、人に辞めさせられるようなことはプライドが許さない。もし辞職勧告決議が可決されたり、公の場で辞任要求が強まれば、『辞めさせられた』形になる。それより自分主導で幕を引いたのだろう」。政治家の進退は通常個人の判断だが、今回は、追い込まれて身を引かざるを得ない形になったようにも感じる。

「ドン」の存在感は、表で力をひけらかすというより、「静かなにらみ」だと、感じたことがある。約10年前、2016年10月に行われた衆院福岡6区補選に、蔵内氏の長男が立候補した。鳩山邦夫元法相の死去に伴う補選で、邦夫氏の次男、鳩山二郎氏(現・自民党衆院議員)も立候補。自民系2人が出馬する保守分裂となったが、さまざまな人間関係も重なって、その仁義なき分裂ぶりは相当激しいものがあった。

2016年の衆院福岡6区補選に立候補した長男への支持を訴える蔵内勇夫氏
2016年の衆院福岡6区補選に立候補した長男への支持を訴える蔵内勇夫氏

世襲のよしあしはあるが、鳩山氏にとっては、亡き父の地盤を継ぐ形での立候補で、ファミリー総出のいわゆる「弔い選挙」。一方、邦夫氏が亡くなった後、当時、蔵内氏が会長を務めていた自民党県連は、選考をへて蔵内氏の長男の擁立を決定。これに対し、自民党本部は2人の公認をともに見送った。長男側には一時、立候補辞退を促す動きもあったと聴いた。

当時の取材メモには、「2人が党本部に公認を申請したが、調整難航」「自民党関係者によると、党本部が複数回情勢調査を行い、すべて二郎氏優勢、直近数字も同じ」と書いていた。ただ、それでも県連側は「何の瑕疵(かし)もない」と1歩も引かず、「県連公認」として蔵内氏の長男の擁立を強行した。蔵内氏は公示直前、県連会長の辞意を表明。息子を公認しなかった党本部への抗議ではないかといわれた。

そんな経緯もあり、この選挙は、自民党内の「弔い選挙」と「敵討ち選挙」の戦いに。野党候補も立候補したが、与野党対決より自民党内の対立が際立った。両陣営の出陣式を取材したが、鳩山氏には、就任したばかりの小池百合子都知事が応援に入り、街頭演説に数千人規模が詰めかける「小池劇場」に。一方、長男の出陣式では、県連幹部や地元の実力者らがステージ上で支持を呼び掛けるのと対照的に、父の蔵内氏は舞台下で見守った。あいさつでは最後に短く「息子は必死で努力しています」と支持を呼び掛けて、頭を下げた。言葉数の少なさが逆に、静かなにらみ、プレッシャーのように感じた。

選挙は鳩山氏が圧勝。蔵内氏の長男は、民進党(当時)候補にも及ばず、候補者4人中3位だった。身内の惨敗に、蔵内氏の影響力もそがれるのかと思ったが、そんなことはなかった。一時示した県連会長の辞意も最終的に撤回し、任期まで務めた。その後も県議会議長を務めるなど、「ドン」の地位は揺らがなかった。

そんな経緯があるからこそ、急転直下の今回の議員辞職は、永田町でも「よほどのことがあったのだろう」(自民党関係者)とみられている。旧安倍派裏金事件で大きな批判を受け、「政治とカネ」への批判再燃を嫌う党本部側が、来年の統一地方選での自民県議の「非公認」の可能性に言及したのも、統一地方選という地方の大型選挙に初めて臨む高市早苗首相(自民党総裁)の意向がはたらいたのではと見る向きもある。

麻生太郎副総裁や武田良太元総務相という2人の地元の自民有力国会議員とともに「福岡三国志」の一角とされてきたのが蔵内氏だったが、地元では「県議が力を握る時代は、もう幕引きになるだろう」という声も聴いた。「来年の福岡の県議選は『ガラガラポン』になるのでは?」。そんな指摘も笑い飛ばせないのが、現実なのだという。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)