鉄道の引き込み線に合わせて造られた築地市場は、扇を広げた形をしている。要に近い場所と奥の隅田川寄りでは売り上げが全く違うという。公平を期すため、1950年に場所替えの抽選を行うようになり、当初は毎年、73年からは4年ごと、85年からは5年ごとに仲卸業者は回転式の抽選器を回していた。抽選は命運を左右する一大イベントだった。

 練り物の仲卸「増田屋」の5人姉妹の末っ子として生まれた女優の中田喜子(62)は、母うたさん(91年死去)が抽選で一喜一憂する姿をよく覚えている。「抽選の年になると、水神さま(魚河岸水神社)と波除神社に行って一生懸命お参りしていました。大通路の角の店は売り上げがものすごく違うって。1番目の通路より2番目、3番目の通路の方がいいらしくて『お客さんはすぐには買わない。ちょっと見て3番目ぐらいがいいのよね』って、よく言ってました」。

 2番目、3番目の角に当たったことも2度あったという。「仕入れたものがあっという間になくなって、番頭さんが(場所の悪い)仲間からかき集めてくるんです。その木箱がまたパッとなくなっていく。逆に『まあかわいそう、こんなに奥』と言うぐらい川に近くて、いくらお客さんがいてもここまで来ないだろうって場所も。だから抽選の年は何か戦いでした」。(この項終わり。中嶋文明)