沖縄県名護市辺野古への米軍普天間飛行場移設が最大の争点になる名護市長選は28日、告示され、3選を目指す現職、稲嶺進氏(72)、政府与党がバックアップする渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏(56)が立候補した。安倍政権VS翁長雄志知事の代理戦争。敗れた側には大打撃だ。秋の県知事選を占う天王山でもあり、両陣営は「壮絶な戦い」「城(市庁舎)の奪還」と火花を散らす。米軍ヘリの相次ぐ不時着、前内閣府副大臣の失言と波乱要素も加わり、「死闘」の一騎打ちだ。2月4日投開票。
「稲嶺市政の8年間で、町の景気や市民の暮らしはよくなったか。答えはNOだ」。渡具知氏は、稲嶺氏の市政運営を厳しく批判。「あまりにも1つの問題にこだわりすぎ、市民生活を置き去りにしてきた。私は市民生活の向上と景気と暮らしを守るため、名護市長になりたい」と訴えた。移設反対を特に強く打ち出す稲嶺氏と対照的に、移設の是非に触れず、この日も「(国と県の)裁判の行方を注視する」とだけ。子育て、経済政策に「あらゆるエネルギーを注ぐ」と、稲嶺氏とは一線を画す戦略だ。
前回は自主投票だった公明党が、今回は推薦。辺野古移設という国の政策にリンクして、政府与党がタッグを組んだ。県の公明幹部は「1票に執念を燃やす戦いだ」と、大接戦を意識。自民は稲嶺氏に2連敗中で、選対幹部は「城の奪還へ頑張るしかない」と話す。
不安材料はある。勝利を見込んだ今月21日の南城市長選で、推薦した現職がオール沖縄候補に65票差で敗北した。支援態勢の緩みも、指摘された。3連敗なら、翁長氏と対立する安倍政権のダメージに直結する。告示前日に二階俊博幹事長が業界団体を引き締め、小泉進次郎氏、沖縄で人気が根強い小渕恵三元首相の長女、小渕優子氏の応援を予定。稲嶺氏は「東京から権力と金力で襲いかかってくるが、負けない」と警戒する。
稲嶺氏は、翁長氏や「オール沖縄」と遊説。辺野古地区では「新基地建設は沖縄経済に、百害あって一利なし。普天間の住民も反対するのに、名護なら安全なのか。そんなバカな話はない」と、政府を批判した。
辺野古を含む久辺3区の住民は、賛成反対で二分される。稲嶺氏は「(移設での交付金という)一時的なニンジンにだまされてはいけない」。移設問題に触れない渡具知氏については、「市民にきちんとした判断を求める意味で、ひきょうなやり方」と切り捨てた。
政府は昨年4月、辺野古沿岸部の護岸埋め立て工事に着手した。県は差し止めを求めて提訴したが、工事は既成事実のように進む。稲嶺氏は「(2期8年で)公約の9割以上は実現できた。1つ実現できていない辺野古の問題を片付けたい」と言うが、勝敗は秋に県知事選を控える翁長氏の「再選戦略」を大きく左右する。
前回は稲嶺氏が約4000票差で当選。その勢いで、翁長氏も知事初当選。2人は一心同体だ。ただ翁長氏は昨年、県内の3市長選で支援候補が敗北。衆院選でもオール沖縄の一角を自民に切り崩された。陣営は「壮絶」「大激戦」と危機感を示す。翁長氏は「沖縄だけでなく、日本の命運を決する戦いだ」と強調。稲嶺氏も「選挙を勝ち、知事再選の環境をつくりたい。知事と名護に私がいる限り、埋め立ては進まない」とけん制した。【中山知子】