金融庁の金融審議会が3日に発表した報告書で、夫婦が95歳まで生きるには2000万円を蓄える必要があると試算した問題が、波紋を広げている。政府が「人生100年時代」をうたう半面、公的年金だけでは生活を維持できない可能性に言及したことで、野党は「アベノミクスのなれの果てだ」(立憲民主党の辻元清美国対委員長)と猛反発。安倍晋三首相と全閣僚が出席する10日の参院決算委員会で、追及する構えだ。

国民の生活に直結する公的年金制度について、政府は「100年安心」としてきただけに、手のひら返しのような内容だ。今夏の参院選を前に表面化した「老後2000万円」問題は、第1次安倍政権が07年参院選で惨敗した原因となった「消えた年金」にも重なる。今回も、選挙戦の重要なテーマに浮上してきた。

報告書では、男性65歳以上、女性60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では、毎月の「赤字額」が5万円と分析。赤字額は、保有資産から補填(ほてん)することになるとし、20年で約1300万円、30年で2000万円、資産の取り崩しが必要だと試算。「長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくる」とも、記している。

5月22日発表の報告書原案には、「今後は公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある」と明記された。実際の報告書では「年金制度の持続可能性を担保するため、マクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められる」と表現が変わったが、資産管理や形成などの「自助」を求める点は一貫している。

報告書の「赤字」という表現について、金融庁を所管する麻生太郎財務相は7日、「不適切だった」と述べ、菅義偉官房長官も「誤解や不安を招く表現。公的年金こそが老後の生活設計の柱」と、沈静化に努めた。ただ、政府に上から目線で2000万円の貯金の必要性を求められた国民は、戸惑い、怒るしかないのが現実だ。【中山知子】