朝10時に出発する列車が始発であり最終列車であるという路線が北海道にある。札沼線の終着駅、新十津川。日本で最も早い最終列車の理由は1日1往復しかないから。そして、そのわずか1往復も来年5月に消滅する予定だ。現地を訪れたのは2012年6月のことだった。



新十津川駅を訪れるため、函館本線の滝川駅近くに宿をとった。なぜ滝川なのか、鉄道的な理由は後述するとして、私的な最大の理由はジンギスカンを食べたかったから。東京でも店舗を展開する有名なジンギスカン店の本店が滝川にある。


列車を降りると「ようこそ新十津川へ」と迎えてくれる
列車を降りると「ようこそ新十津川へ」と迎えてくれる

新十津川駅へは札幌から札沼線に乗って向かう方法と新十津川から乗る方法との2つがある。地図を見ると新十津川駅は滝川駅に比較的近いらしい。滝川は特急を含めすべての列車が停車する駅でアプローチは容易だ。そこにジンギスカンとあっては、深く考えることなく滝川泊が決まった。

そもそも札幌に行く度にジンギスカンを食べていたが、生肉を焼いてタレをつけるものと前もってタレにつけ込んだ肉を焼くという2つがあるなんて、全く気付かなかった。よほど鈍感だったというしかないが、とにかく夕方に滝川に入ると、ジンギスカンを堪能。翌朝、いよいよ新十津川駅に向かうことに。


かつては石狩沼田方面に伸びていた線路も今は途絶えている(2012年6月)
かつては石狩沼田方面に伸びていた線路も今は途絶えている(2012年6月)

タクシーは味気ないのでバスで向かおうかとも思ったが、よく分からなかったし、早く目覚めたので徒歩で向かうことに。地図で見ると4、5キロというところ。直線の道ではないが、ほぼ一本道。石狩川を渡り、1時間もかからずに到着した。

ちなみに2012年当時は今と違って“1日3本もの”の列車が来ていた。この時、訪れたのは札幌までの直通列車が消滅するという報に触れてのもの。ただし3本の列車のうち、札幌行きは朝の1本だけ。キハ40が札幌駅に入るのも貴重な光景となるし、今のうちに乗っておかなければならない、と一部電化直後に駆けつけたのだった。


新十津川駅時刻表。当時は1日3本の列車があった(2012年6月)
新十津川駅時刻表。当時は1日3本の列車があった(2012年6月)

その後、札幌行きが石狩当別行きとなり、3年前のダイヤ改正で午後の2本が消滅。どんどん規模が縮小されていると最後は…の例に漏れず、来年5月に新十津川~北海道医療大学間が廃止されることになった。

到達困難な駅に近付くと、いつもドキドキする。この時もそうだった。味わいのある木造駅舎が見えてきた。駅舎はきれいに手入れが行き届いている。駅というのは町の顔。本数は少なくても新十津川町の顔として十分に機能している。ローカル線の無人駅で、こういう光景を見ることが多く、いつも頭が下がる思いだ。


新十津川駅の駅舎(2012年6月)
新十津川駅の駅舎(2012年6月)

やがてキハ40が接近してきた。ふと気付くと私と同じ鉄道ファンと思われる方が2人、カメラを構えている。そして子どもの姿。

札沼線は「札幌」と留萌本線(※)の「石狩沼田」を結ぶ路線として計画されたことに始まる。昭和になって順次開業。戦時中の休止から復活したが、乗客の減少から72年に石狩沼田~新十津川間が廃止。その一方で札幌付近はベッドタウンとして人口が増えて新駅も設置、一部区間の複線化そして電化と発展の一途をたどり、同じ路線でありながら二極化が進むという、あまり類を見ない形で歴史を刻んできた。


新十津川駅に到着する列車(2012年6月)
新十津川駅に到着する列車(2012年6月)

札幌から北海道医療大学までの電化区間30キロと、そこから新十津川までの50キロはあまりにも対照的な車窓が広がる。ちなみに路線の正式名称は札沼線だが、石狩沼田駅までレールがつながらなくなった今は、名称の意味も失われており、愛称である学園都市線が定着している。

新十津川駅周辺の空気を満喫しているうちに出発の時間が迫ってきた。乗り込んだのは私1人。と、子どもの皆さんが手を振って見送ってくれる。あれは感動したなぁ。後で隣接する病院の保育所の皆さんと知った。悪天候でない限り、毎日の見送りをしているという。


新十津川駅の駅名標。名称は学園都市線となっている(2012年6月)
新十津川駅の駅名標。名称は学園都市線となっている(2012年6月)

単行のキハ40は運行の拠点となる石狩当別駅で長時間の停車を行い、増結された。ホームには多くの乗客が待っている。ふーん、だから増結するのか、と思っていると、途中駅から乗り込んできた乗客が一斉に席を立って増結された車両に移動し始めた。わざわざ混んでいる車両に移動するとは何ごとか、と様子を見にいくと瞬時に分かった。増結された車両はエアコン付きだったのだ。北海道といえど、6月となれば冷房のほしい季節。こんなところでも路線内で差があるのか、と思ったものだ。


列車の出発を保育所の皆さんが見送ってくれた(2012年6月)
列車の出発を保育所の皆さんが見送ってくれた(2012年6月)

ただトコトコ走る1日1本の列車というのは捨てがたい魅力がある。まだ廃線までは1年以上の時間がある。ぜひ訪れてほしい。1日1本の列車しか来ないというと一体どんなところだろうと思ってしまうかもしれないが、周辺にはコンビニもあるので、それほど不自由な感じはしない。繰り返すが駅は今も町の顔。駅構内のかつての窓口は観光案内所となっている。町のホームページから観光に入ると、まずは駅舎の写真があり、到着と出発の動画も見ることができる。


以前は札幌までの直通列車があった(2012年6月)
以前は札幌までの直通列車があった(2012年6月)

札幌から札沼線で向かうなら、6時58分の列車に乗れば到達できる。唯一の列車で遅刻するとまずいが、札幌からは滝川までは多くの特急が走っている。私は歩いたが、タクシーに乗れば10分もかからず着くだろう。本数が多いとはいえない(当然の話だが新十津川駅の本数よりは多い)が、駅の近くまでバスもある。「日本一早い最終列車」「1日1本」に乗ったという達成感を味わってみてください。【高木茂久】

(※)深川から留萌を経て増毛までを結んでいた。日本海沿岸の光景が美しかったが、日本海沿いの留萌~増毛が2016年に廃線となった。