リタイア後は社会との関わりが少なくなり、外出する機会が減るといわれています。通勤のついでに通っていた歯科医院への足が遠のき、人と会わなければ歯磨きも忘れ…と、オーラルケアがおろそかになることは容易に想像がつきます。

 こういった環境で虫歯や歯周病が進行すると、かまなくても済むような食事になってしまいます。多少歯が痛くてものみ込めるパンや麺類といった食品を好み、繊維質の多い緑黄色野菜や肉・魚といったタンパク質などの摂取が減ると、栄養バランスの悪化を招きます。これがやがて慢性的な栄養不良や体重減少、筋力の低下につながり、歩行や握力といった身体機能の衰えが始まります。この流れをどこかの時点でせき止めないと、要介護状態になりやすくなるという研究データが多方面からまとまり、オーラルフレイルを早期に発見しようという概念が定着しました。

 具体的には、口から食べ物をこぼす、うまくのみ込めない、滑舌が悪くなるといった現象がその入り口とされています。お年寄りの1人暮らし世帯も多いでしょうから、フレイルに関する知識が広がり、相互にフレイルチェックができる世の中にしていきたいものですね。

 2016年に日本老年歯科医学会は、<1>かむ力の低下<2>舌の筋力低下<3>舌や唇の運動機能低下<4>口の不潔度(舌の汚れ)<5>口の乾燥<6>のみ込む能力の低下<7>かみ砕く能力の低下-という7項目のうち3つ以上に該当する状態を「口腔(こうくう)機能低下症」と定義しました。

 今年4月からは65歳以上の機能低下症患者に対し、筋力をアップさせる訓練などが保険治療の範囲内でできるようになっています。歯科医院が「虫歯を治すところ」から、「定期的なケアをして口周りの衰えを予防するところ」になってきたのは、食べる力が人間にとっていかに重要かを物語っています。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。