まもなく齢(よわい)80を迎える私の母は、いたって健康。栄養のバランスを気にしたりはしないが、酒やたばこなどで息抜きをするといったこととも無縁な母。しかし、ストレスオフの視点で母のライフスタイルを見ると、実は理にかなっているのだと気づかされることが多い。

▼まず第1によく歩く。しかも年齢に似合わない速足で、大変な健脚の持ち主だ。都会で暮らしていると車に乗る機会が少ないこともあり、いい運動習慣となっている。沖縄では100メートル先のコンビニにも車で向かうご高齢者が多いと聞いたことがあるが、適度な運動の機会を自ら逃してしまっているようなものだ。

第2によくしゃべる。電話で友人たちとの会話に花を咲かせていることも多いが、この「おしゃべり」は親しい人とのコミュニケーションの一種であり、オキシトシン(ストレス中枢を沈静化し、ストレス物質のコルチゾールの分泌を抑制する働きがある脳内ホルモン)を活性化させる効果がある。ストレスオフ行動と言えるものだ。

▼第3が、本日のテーマ「3度の飯より音楽が好き」。琴の師範をしていた祖母の影響を受け、もともと音楽が生活の一部となっていた母。クラシックを好んでいたが、あるとき出会った人生の支えともいえる歌声、それが3大テノールとして有名なプラシド・ドミンゴである。「美声・美貌・表現力、どれをとっても頭1つ抜き出ている」(本人談)とのことで、どんなに嫌なことがあっても、ドミンゴの声を聴いてケロッとリセットしてしまう。

思えば、母は経営者である多忙な父に頼らずに、幼少時の事故によって障がい者となった次男を含む3人の息子を育てるのは苦労が絶えなかったと思う。それでも明るく極めて健康的に長寿を貫いているのは、音楽によって気持ちをコントロールできていたからかもしれない。聖路加国際病院の日野原重明先生が広めた音楽療法を地で行ったような人生で、そういう観点からも趣味というのは本当に大切だと思う。自分の気持ちを落ち着かせたり、逆にやる気を出させたり。そんなキーポイントとなる趣味を持っておくことがストレス視点での健康長寿のこつかもしれない。