最近、70歳以上の高齢者の5人に1人、そして若い女性にも急増しているのが、「新型栄養失調」です。戦後に問題になった栄養失調はカロリー全体の摂取不足でしたが、新型栄養失調は一部の栄養素の摂取不足によって起こります。特に高齢者に多いのは、血液中の「アルブミン」という物質が低下して起こるものです。

アルブミンとは、食事からのタンパク質が原料で体のあらゆる組織になる物質。食事でタンパク質が不足するとアルブミンも低下して新しい組織がつくれなくなるのです。こうなると、年齢より老けて見えたり、筋肉量が少なくなり骨折したり、さまざまな感染症にかかりやすく、さらに脳出血まで起こす恐れもあるということです。

毎食きちんと食べているつもりでも、「元気が出ない」「体がだるい」と感じたら、もしかしてアルブミンが低下しているかもしれません。こうした症状が、高齢者の間で広がっているようです。悪化すれば、寝たきりなど介護のリスクが高まるといわれています。

飽食の現代にあって栄養失調とは-と思われるかもしれませんが、人間総合科学大学元教授の熊谷修氏によると「体形がふくよかでも栄養状態がいいとは限らない。特に高齢女性はその傾向が顕著」と話し、戦後の食料難の時代とは異なる「新型栄養失調」と、呼んでいます。

老化に伴い、体のタンパク質は自然に低下します。それを防ぎ、アルブミン値を高めるためには、肉やたまご、牛乳などを積極的に摂取することだといいます。ことに、年を取ってから肉を食べると、新型栄養失調症予防にもなりますし、かむことによる脳への血流量増加(認知症予防)、かむことによる唾液の分泌量増加(口腔=こうくう=内がきれいになり、誤嚥=ごえん=性肺炎などの予防になる)を可能にすると言われています。年を取るとどうしてもあっさり系の料理を好みがちですが、むしろ肉類をとることが大事になってくるのです。

若い女性の食生活も、食事制限やダイエットのために、1日を通してスムージーや野菜サラダのみ、という人もいます。こうなると、タンパク質とミネラルが不足しがちで、栄養素に偏りがでてしまい新型栄養失調に陥るのです。

◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビ、ラジオでコメンテーターとして出演多数。テレビ朝日系の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修をドラマ立ち上げの時から務め、今年10月に新シリーズを迎える。気分転換は週2回のヨガで、15年あまり継続。インスタグラムdoctormorita、ホームページmorita.proなどで情報発信中。