エベレストの頂に立つことを助けるために、私も74歳の三浦雄一郎さんの心房細動に立ち向かいました。アブレーション治療のカテーテルは左心房の中です。左心房は想像以上に大きく変形しています。リモデリングのために肺静脈の根本は太く変形し、腫れた左心房との境目がはっきりしない状態でした。
アブレーションがうまくいけば左心房の腫れは治まります。何としてでも治してあげたい。思いが通じたのか、左心房の中をカテーテルは生き物のようにしなやかに動き、先端は三浦さんの思いに応えるように心筋をしっかり捉えます。心電図モニターの音に混じって規則的に繰り返す高周波アブレーション通電の音が響きます。2回の治療を終え三浦さんの心臓は、正常な脈を取り戻しました。
75歳のエベレスト挑戦が始まりました。インターネット環境も厳しい中、現地から毎日送られてくる心電図モニター波形を家坂副院長と2人で見守っていました。エベレスト山頂を前に突然、三浦さんから「脈がおかしい、飛ぶ感じだ」との連絡が入りました。心電図モニターが送られてきました。正常なリズムの脈に混じって速い脈が入り込む心房性期外収縮です。家坂副院長に「心房細動の兆しか?」と聞かれ「この期外収縮は心房細動にはならない形です。行けます。責任持ちます」ときっぱりと答えました。
すぐにアタックとはいきません。現地の三浦さん、スタッフ、息子の豪太さん、娘さんの恵美里さんからすると無理もありません。もし心房細動が起こったらという不安と恐怖は計り知れなかったでしょう。私は「大丈夫です。心房細動はアブレーションで十分に焼いてます。登っても大丈夫。GO(ゴー)です。エベレストに今登ってください!」と声を上げてしまいました。アタックが再開されました。三浦さんが山頂に立った場面を思い出すと、今でも目頭が熱くなります。

