2020年東京五輪・パラリンピックの大会マスコットは、五輪史上初めて一般投票で決定する。投票できるのは小学生で、1クラス1票の投票資格が与えられた。全国約2万1000校で参加登録したのは1万4727校。そのうち、6842校、8万1687クラスが投票を終えた(1月29日現在)。日刊スポーツは東京都中央区立明石小学校の5、6年クラスを取材。子どもたちが意見をぶつけ合う、生の投票現場を追った。【三須一紀】


■小学校28万クラスによる初の一般投票


 子どもたちは正直だ。「小学生が決められると聞いたとき、私たちがデザインできるのかと思った。実際は3つの中から選ぶというもの。ちょっと物足りない」と小5女児。逆に言えばそれほど、東京大会のマスコットに興味、関心が湧いている証拠だった。


明石小6年1組のウ案を推すグループのホワイトボード。意見が書かれた付箋を項目ごとにまとめていた(撮影・三須一紀)
明石小6年1組のウ案を推すグループのホワイトボード。意見が書かれた付箋を項目ごとにまとめていた(撮影・三須一紀)

 1月18日。6年1組、5年1組、2組の3クラスがそれぞれ、授業2コマ(45分×2)を使い「選挙」を行った。各クラスで方法は違った。

 6年1組の榎谷北斗教諭は、各自に付箋の束を配り、児童は選びたいマスコットの推薦理由を思いつくだけ書いた。「(1)考えを広げる(個人)→(2)まとめる(グループ)→(3)支持理由の発表(代表者)」の順で進めた。

 (1)が終わった後、挙手で選びたい案に1次投票。(2)では各案の推薦者が班に分かれ、無数に書かれた付箋の推薦理由を、ホワイトボードにまとめていった。まるで手書きのパワーポイントのよう。各班、コンペを控えたサラリーマンのごとく、意見をぶつけ合い、プレゼンシートを作成した。

 「ウ」を推薦した理由を菅原悠叶(ゆうと)くんは「キツネ(五輪)とタヌキ(パラリンピック)というほぼ同等の立場で、健常者と障がい者も『同じ』という意味に捉えられる」と述べた。他にも「外国にはない文化で日本の昔っぽい」、ネット上の話題と同様に「ローソンの『ポンタ』のようで身近で良い」という率直な意見も出た。

 結果的に6年1組は「イ」が最多票を得る。「外国人が親しみやすい(ウは日本っぽすぎる、アは生きている感じがしない)」「神社感があり『福』がある」「火が日本らしさを表している」「神様が見てる感じがする」「勝利のイメージ」「目の色が五輪っぽい」「パクリ感が薄い」と多種多様の意見が出た。


 5年1組はまず東京都の五輪教材を使って、20年の自分の目標を考えた。村栄秀虎(ひでと)くんは「外国人と普通に英語で話したい」。高橋真太朗くんも「外国人に道案内してあげる」と意気込んだ。

 マスコット選考は討論形式だった。机を「コの字」に並べ替え、意見を述べた児童が次の発表者を指す。そこは小学5年生。発言者への反対意見は遠慮なく飛び出る。すると村上志乃教諭が「人はね、悪いところは見つけやすいの。良いところを言ってあげて」と諭した。

 「ア」を推した高橋くんは「イ、ウは過去のもの。アは良い能力を持っており『未来』を選択したほうがいい」。戸田朔太朗くんも「20年は今よりもっとすごい技術が生まれると思う。それを表すのがまさに、アだ」と大人顔負けのプレゼンだった。大屋慎司くんは「ウ」を推し「ぬいぐるみが作りやすい」と五輪事務局のような現実的な目線で語った。5年1組は「ア」に投票することを決めた。

 5年2組の中村秀世教諭は冒頭、1964年(昭39)の東京大会のビデオを見せた。その後、6年1組とは違い、班ごとに分かれ、それぞれが推薦する上位2案の良いところをホワイトボードに書いた。

 同組は「ウ」が最多票を獲得。「日本古来から知られているキツネとタヌキで子どもたちにも人気」「勾玉(まがたま)模様が日本っぽい」と「日本らしさ」が受け入れられた。僅差で敗れた「ア」だが、思い入れが強いのか集合写真の際、「ア」のデザインが描かれた紙を頭上に持ち、下げない児童までいた。

 偶然にも3クラスが違う作品に投票。自由投票ではあるが、全国では約28万クラスある。投票締め切りは2月22日。日本の子どもたちが、キャラクター大国の五輪マスコットを決める。

候補「ア」 右がオリンピック、左がパラリンピック
候補「ア」 右がオリンピック、左がパラリンピック

●候補(ア)

 「五輪」…大会エンブレムでも使われている青い市松模様をあしらった、伝統と近未来性を併せ持つキャラクター。伝統を大切にし、常に最新情報をキャッチ。瞬間移動ができる。

 「パラ」…ピンク色の市松模様で、桜の触角があり、超能力を持つ。自然を愛し、石や風と話せて、見るだけで物が動かせる。

 「共通点」…性格は正反対も、お互いを認め合う大の仲良し。


候補「イ」 右がオリンピック、左がパラリンピック
候補「イ」 右がオリンピック、左がパラリンピック

●候補(イ)

 「五輪」…福を呼ぶ招き猫や神社のキツネがモデル。日本を暖める炎と大地から生まれた。お祭りの活気を伝え、炎の尻尾で人々に元気を与える。縁側で昼寝をするのも好き。

 「パラ」…神社の守り神、こま犬がモデル。雲がモチーフのたてがみなど、日本に四季を呼ぶ風と空をイメージした。枯れ木に花を咲かせることもできる。

 「共通点」…日本の大地や大空を舞台に競い合っている。


候補「ウ」 右がオリンピック、左がパラリンピック
候補「ウ」 右がオリンピック、左がパラリンピック

●候補(ウ)

 「五輪」…日本昔話の世界から飛び出してきたキツネをイメージし、日本古来の勾玉(まがたま)を眉や、ほおにあしらった。人懐っこいリーダータイプで、風の精霊と一緒に応援する。

 「パラ」…日本古来の化けるタヌキがモデルで、頭の上の葉っぱで、自由に変身できる。おっとりしながらも、ムードメーカーで、森の精霊と一緒にみんなを盛り上げる。

 「共通点」…おめでたい紅白カラーに金の水引を背負っている。


 ◆マスコット選考経緯と今後 昨年8月、デザインは一般公募され、集まった2042件から3案に絞られた。12月11日~2月22日まで投票を受け付け、1票でも多い作品が採用される。採用作品の発表は2月28日。選ばれたマスコットの名前は今年7、8月に発表予定。名前は一般公募ではなく、専門家に業務委託し、複数案をマスコット審査会に提示。決定案の作者も入り、数案に絞り込む。その後、国内外の商標調査にかけ、決定する。五輪でマスコットが初登場したのは1968年グルノーブル冬季大会(フランス)。パラリンピックでは80年アーネム夏季大会(オランダ)。