東京五輪・パラリンピック300回連載

ニコン、キヤノンにソニーも来た 五輪カメラ戦争

東京オリンピック(五輪)・パラリンピックイヤーで選手や観客の歴史的瞬間の“1枚”を収めるカメラ。これまで4年に1度の世界最大の祭典を、望遠レンズの外装が「白」のキヤノンと「黒」のニコンが盛り上げてきた。その2強に瞳フォーカスなどオートフォーカス(AF)に自信を持つソニーが割って入る形に。日刊スポーツ写真映像部3人(河野匠=キヤノン、加藤諒=ソニー、鈴木みどり=ニコン使用)に各社のフラッグシップ機の特徴や東京五輪への思いを座談会形式で聞いた。【取材・構成=佐藤勝亮】

カメラを構える日刊スポーツのカメラマン。左から河野匠、加藤諒、鈴木みどり
カメラを構える日刊スポーツのカメラマン。左から河野匠、加藤諒、鈴木みどり

3社のフラッグシップ機は、キヤノン「EOS-1DX Mark2」ソニー「α9 II」ニコン「D5」。キヤノン、ニコンは一眼レフ、ソニーがミラーレスだ。

-日頃使用していて感じる、各社の特徴を教えて下さい。

河野(キヤノン) 高画質でも1個のファイルサイズが小さい。速報性が求められるこの仕事では、欠かせない。パソコンに直接つないで、すぐに送信できることがありがたい。

加藤(ソニー) 19年4月から使っています。大会会場でのプロサービスも充実してきているし使ってみたらすごくよかったかな。

鈴木(ニコン) 私は大学の時からニコンを使っている。見た目が黒いところがお気に入り(笑い)。

-写真を撮る上で一番大切な要素はなんですか

一同 ピントかなあ~。ピントが合っていることが大前提だもんね。

加藤(ソニー) ソニーは他社よりたけているかな。フィギュアスケートの現場に行った時、動きが速く、以前は写真の2~3割のピントが合っていればいいかなという難しい場面でも7~8割合っていて、僕の中では革命的だった。

鈴木(ニコン) ピントを合わせることが楽だと、他の構図に時間を割いたりできるよね。

河野(キヤノン) 確かにピントは大切だね。だけど、カメラにピントを任せすぎると、被写体が2人以上いた時に、カメラが迷ってしまって、もしものことがあったら、と考えたら僕は怖いな~。

-ニコン、キヤノンの特徴は

鈴木(ニコン) ニコンは起動時間が速い。押したい時にすぐ押せるから一瞬を撮り逃さない。暗いところでもすごくピントがあって、オートのホワイトバランスがよくて、ブライダルの現場でもよく使われているって聞いたよ。

河野(キヤノン) キヤノンは暗い中でも絵のざらつきが少ない。昨年のドーハでの世界陸上競歩は暗くて高温多湿という悪環境で、給水で水をかぶる選手がいた(写真(1))。水1滴を玉のようにして迫力を伝えたかった。シャッタースピードを上げて、ISOを上げ、高感度で撮影してたけど本当にきれいに撮れた。100-400のレンズが他社に比べて優秀で軽い。雨とか衝撃にも強い。

【写真1】19年9月、世界陸上ドーハ大会の女子20キロ競歩、レース中に頭から水をかぶる岡田(右手前)
【写真1】19年9月、世界陸上ドーハ大会の女子20キロ競歩、レース中に頭から水をかぶる岡田(右手前)

-このカメラだから撮れたという写真は

加藤(ソニー) キヤノンはAFが速いと評判だね。サッカーのセットプレーで予測していなかった選手にボールが来ても、素早くレンズを振って選手にピントを合わせられると聞くよね。ニコンは光学性能が1番かな。一昨年のレスリング全日本選手権ではニコンを使用していたけど、伊調馨が川井梨紗子に逆転した時の写真(写真(2))は、ニコンの暗いところでも正確にピントを合わせられ、高感度の描写にも強い性能があったから撮れた写真だったよね。ソニーはモニターに電子映像が映るから両目で状況を把握しながらの撮影もできる。サッカーとかボールがどこにあるかわからなくなる現場ではすごく助かる。

【写真2】18年12月、レスリング全日本選手権女子57キロ級、伊調(奥)は川井梨を下して優勝を決め、雄たけびを上げながらガッツポーズする
【写真2】18年12月、レスリング全日本選手権女子57キロ級、伊調(奥)は川井梨を下して優勝を決め、雄たけびを上げながらガッツポーズする

河野鈴木 全部言ってくれてありがとう。各社の広報大使になれるね(笑い)。

-東京五輪で撮りたい瞬間は

河野(キヤノン) 日本人選手が金メダルを取る瞬間の表情。

鈴木(ニコン) 日本人選手が金メダルを取った時のガッツポーズ。表彰式ではなく、優勝が決まった瞬間の自然に出る、かっこいい瞬間を撮りたい。

加藤(ソニー) 大会を象徴する1枚を撮りたい。4年に1度のNO・1を決めるモーメントがたくさんある。最下位でも国の事情を乗り越えて周りの人に感謝している瞬間があるかもしれない。時代を切り取る1枚。できればそれが日本人選手であって欲しいな。56年ぶりの東京大会の意味を含めた瞬間を撮りたい。


<各メーカー担当者のひとこと>

◆ソニーマーケティングジャパン中西拓也氏

ソニーは2013年に世界で初めてフルサイズミラーレスの開発に成功しました。カメラの心臓部のイメージセンサーを開発することが得意で、現在にわたりaiboなども世に送ってきた弊社では<1>高画質<2>スピード<3>機動性<4>スタミナ<5>専用設計レンズの5つの指標を開発の基準にしています。

フラッグシップ機の特徴は、<1>リアルタイムトラッキング(瞳フォーカス)<2>1秒間に20コマ撮影<3>位相差693点<4>質量が678グラムの超軽量となっています。瞳にピントが合うことによって、プロのカメラマンさんからは「構図に集中できる。働き方改革だ」と言われています。また、ミラーレスならではのサイレント高画質連写撮影で、ゴルフなどの静粛性が求められる瞬間で「今まで誰も撮ったことがないシーン」の撮影が可能になりました。

◆キヤノンマーケティングジャパン橋本圭弘氏

昨秋のラグビーW杯日本大会決勝トーナメントでは、キヤノンの報道用カメラ使用率が70%を達成しました。カメラメーカーには、先端技術や最高クラスの性能に加え、きめ細やかなサービスやサポート体制などの「総合力」が求められます。ユーザーへのサポート体制が充実しており、築き上げてきた信頼関係で、報道現場を支えてきました。

旗艦モデルの新型EOS-1DX Mark3を2月中旬に発売。特徴は<1>現行機Mark2(1530グラム)より90グラム軽量<2>低輝度でも画像がザラつかない解像感<3>AFの追従性能向上(頭部認識、瞳AF)<4>1秒間に16コマ撮影(ミラーアップで20コマ)<5>耐久性能<6>フルサイズでの4K動画撮影<7>Wi-Fi機能内蔵。2と操作性はほぼ変えていませんが、中身は全く別物。

◆ニコンイメージングジャパン小笠原武彦氏

弊社のフラッグシップ機の特徴は、<1>AFの性能が良い(ピントが来る)<2>解像度が高い<3>低輝度(暗い所)での高感度精度が高い<4>ISOが10万2400まで使えてオートフォーカス(AF)も追従することです。また、1秒間に12コマ撮影することもできます。弊社のビューファインダーはとても見やすくきれいで、ミラーレス製品の電子ビューファインダーでも、酔うことなく撮影できると思います。

低輝度での撮影を得意としているため、多くのフォトグラファーの方から「ニコンのカメラを使うと、暗い場所でもきれいに撮れる」とお褒めの言葉をいただいております。スポーツではAF性能が高くピントが瞬時に合うため、陸上競技、球技に強いと思います。今年はさらに進化したD6が発売予定です。


<わたしのこの1枚>

◆加藤カメラマン

加藤カメラマンのベストショット
加藤カメラマンのベストショット

ソフトバンク4連勝で幕を閉じた2019年の日本シリーズ。勝敗が決した瞬間の1枚です。日本一を手中におさめて拳を突き上げる守護神・森唯斗、歓喜の中心に飛びつく松田宣浩。二塁上では同点の生還を果たせなかった走者が腰に手を当ててたたずむ。400ミリの望遠レンズで切り取った画角いっぱいに、勝者と敗者の物語が繰り広げられていました。狙っても撮れず、狙い通りに撮れても他のポジションから良い絵が出てきたり、悔しい思いをしてきたシーズン最後の試合で、苦労が報われた1枚となりました。

◆加藤諒(かとう・りょう)福岡県生まれ東京育ちの31歳。11年朝日新聞社入社。仙台総局、東京本社写真部、大阪本社写真部(現映像報道部)を経て19年5月から日刊スポーツ新聞社へ研修派遣中。初めて買った一眼レフはソニーα700。19年α9 IIを購入して10年超ぶりにソニーに回帰。サッカーW杯の入場曲「アンセム」を聞くと胸が熱くなる元サッカー部員。

サッカー東アジアE-1選手権でソニーとニコンのカメラを手にする加藤諒カメラマン
サッカー東アジアE-1選手権でソニーとニコンのカメラを手にする加藤諒カメラマン

◆河野カメラマン

河野カメラマンのベストショット
河野カメラマンのベストショット

13年9月14日、北海道での女子プロゴルフ取材、朝から降雨でプレーが中断していた。クラブハウスから外の様子を見ると、コースを横切る動物の影。キタキツネだった。「プレー中にこのキツネが出たら何かあるかも?」と思い、再開後に待っていた。すると近くのバンカーにJ・スピーチリー選手の打った球が入り、出てきたキツネがそのボールをくわえて逃げていった。スポーツ報道写真のだいご味とも言える決定的瞬間やハプニング。常に「何かあるかも」とアンテナを広げていたから撮影できた1枚だった。

◆河野匠(こうの・たくみ)島根県生まれの36歳。北海道で学生時代を過ごし08年入社。販売、経理を経て写真部(現写真映像部)配属となり7年目。初めて一眼レフカメラを持ったのが配属時のためアラフォーが近づくもまだ新米カメラマン。一番の悩みは大学まで陸上中長距離選手だったと言っても誰も信じてくれない腹回り。取材で東奔西走するも引き締まらない。

2日、箱根駅伝のトラック代表取材でキヤノンのカメラを構える河野カメラマン
2日、箱根駅伝のトラック代表取材でキヤノンのカメラを構える河野カメラマン

◆鈴木カメラマン

鈴木カメラマンのベストショット
鈴木カメラマンのベストショット

19年11月2日、ラグビーW杯決勝での1コマです。大会は盛り上がったし。いよいよ最終日だし、かっこいいガッツポーズを撮りたいなと漠然と思っていました。最高の舞台でその瞬間が訪れたのです。南アフリカWTBコルビ選手がトライの後、目の前で派手にガッツポーズしてくれました。後ろでイングランドの選手がガックリしている姿も写っていて、明暗がはっきりした写真になったなと思いました。撮影ポジション次第で撮れるものは変わってきます。この写真が撮れたのは運が良かったですけどね。

◆鈴木みどり(すずき・みどり)東京生まれ小田原育ちの30歳。千葉の大学を卒業後、専門学校で2年間写真を学び、14年入社。整理部を経て写真映像部配属となり5年目。スポーツ経験は特になく運動は全般苦手。眼鏡なしでは家から出られないほどのド近眼。趣味は休日に友人と日本酒を飲むこと。来世は荷物が重くない仕事に就きたいと切に願う。好きな色は青。

19年12月、ハンドボール女子世界選手権でニコンとソニーのカメラを使って撮影する鈴木みどりカメラマン
19年12月、ハンドボール女子世界選手権でニコンとソニーのカメラを使って撮影する鈴木みどりカメラマン

★上手に撮るには

プロのスポーツカメラマンが語る、初心者でも上手に撮れる方法。河野は「先輩から『プロのカメラマンはスポーツを撮っているのではなく、スポーツをしている人を撮っている』と言われたことが心に残っている」と語った。

◆陸上100メートル走 シャッタースピード1000以上、F値はできるだけ小さく、望遠レンズ。観客席にいる家族などに近づいて行く場合もあるので近くから撮れたら最高の瞬間。

◆マラソン シャッタースピード640、F値2.8~5.6。テレビ塔など、街の雰囲気と一緒に撮ると五輪を感じられる。あえてワイドで撮る。

◆柔道 シャッタースピード640、F値2.8。室内競技なのでISOを上げる。いつ技がかかるかわからないため粘りが必要。技を掛けられた時、上向きになることが多い。上を向いて喜ぶシーンを狙う。

◆水泳 室内競技で水も一緒に撮るので、シャッタースピード、F値は何を撮りたいかによって変わる。ゴーグル、キャップ着用なので、表情が見えない。ゴールして、掲示板を見て喜んでいる表情を狙う。仲間の応援席の付近だと狙いやすい。

日刊スポーツが2020年東京五輪・パラリンピックに向けて毎週お届けする300回の大型連載です。ここでしか読めないスペシャルな話題満載です。

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