2020年東京オリンピック(五輪)聖火引継式が、現地時間3月19日に、ギリシャ・アテネのパナシナイコスタジアムで行われる。聖火を日本につなぐ儀式を盛り上げる、開催国による文化パフォーマンス「東京2020文化パート」の監督を務めるのは、LDHのチーフ・クリエイティブ・オフィサー、EXILE HIRO(50)だ。キッズダンサーを中心に、日本とギリシャの神話を融合させたパフォーマンスに込めた思いや、五輪について話を聞いた。【大友陽平】

2020年東京オリンピック(五輪)聖火引継式の「東京2020文化パート」監督を務めるEXILE HIRO
2020年東京オリンピック(五輪)聖火引継式の「東京2020文化パート」監督を務めるEXILE HIRO

■昨年5月組織委から依頼

引継式まで2週間となった。1月26日には千葉・幕張メッセで通しリハーサルも行い、報道陣にも一部公開。約10分間のパフォーマンスへ、入念に準備を進めてきた。

HIRO ここまで順調にきているので、あとは出演する子たちの体調管理など、どれだけベストコンディションで本番を迎えられるかだと思います。

昨年5月、森喜朗会長ら組織委員会から「文化パート」の依頼を受けた。

HIRO 最初お話しを聞いた時は、ビックリしました。15年から組織委員会の文化・教育委員会の委員をやらせてもらって、それも勉強のつもりで参加させてもらっていたんですけど、すごくうれしかったです。日本中の人が元気になって、誰が見ても納得してもらえるようなパフォーマンスをイメージしながら、日本代表として頑張りたいと、率直に思いました。

今回は、聖火リレーのコンセプト「Hope Lights Our Way/希望の道を、つなごう。」という思いを、子どもたちを中心に表現する。

HIRO LDHのライブではこれまでもキッズダンサーが大勢出演して、そこから大人になってアーティストになったり、「夢の持つ大切さ」をテーマにエンターテインメントを作ってきました。今回も、子どもたちのエネルギーや、未来を切り開く力を表現できたらと、すぐに思い浮かびました。

■「安全第一」強調

LDHが展開するエンターテインメントスクール「EXPG STUDIO」の国内12校の生徒を対象にオーディションを行い、10~18歳までの小学生から高校生140人を中心に、神楽などサポートメンバーを加えた216人(予定)でパフォーマンスする。

HIRO 日本のキッズダンサーの実力は、世界でも数年前からトップクラスです。世界に向けて、こんなに踊れる子たちがいるんだと感じてもらえると思います。また安全に関しては、組織委員会からもアドバイスをいただいています。今回出演する多くの子は、ライブ出演経験がありますが、安全第一で行います。

パフォーマンスは「不屈の精神」「創造と革新」「未来への希望」をテーマにした3部構成。聖火を生み出す“太陽の光”を手に入れ、時代を超えて“未来への希望の光”を受け継ぐというストーリーに、日本とギリシャ両国の神話や神楽、日本の祭り、ストリートダンスなどを融合させた。演出は、EXILEらLDHアーティストのライブ演出を担当する「TEAM GENESIS」が手掛ける。

HIRO もともと大きな会場でやるのは得意分野です。誰が見ても日本らしさが分かりやすくて、かつ躍動感があって、ドラマチックに…。どこを見ても楽しめるように意識しました。スタジアムなので、前から見る人もいれば、後ろから、左右から見る人もいます。目が1カ所にいかないような流れや展開も意識しました。実際に会場も視察させていただいて、荘厳でしたし、客席も大理石でできていたり、重厚だったので、そこから得られるエネルギーはすごいと思いました。あとは昼の開催で屋外なので、晴れた場合、雨の場合、風が強い場合などは想定しながら、準備は進めています。

HIRO自身も本番に向けて気持ちは高まっている。

HIRO 自分にとっても、一生でなかなか経験できないことです。楽しみたいですし、そこに参加することで、日本人として、LDHとしてもこれから世界を目指す時のいいエネルギーというか、原点回帰できるような、心洗われるようなイベントになると思います。今回の引継式で引き継がれた聖火が、さらに日本全国につながれていって、開会式で点火されるわけじゃないですか? 新たな感動を感じられたらうれしいですね。

EXILEは08年の北京五輪でテレビ東京系、16年のリオ五輪でフジテレビ系の五輪テーマ曲を担当してきた。HIRO自身、生観戦の経験はないというが、刺激を受けることも多いという。

1月「聖火引継式文化パート」リハーサルを終え囲み会見に応じた2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(右)とEXILEのHIRO
1月「聖火引継式文化パート」リハーサルを終え囲み会見に応じた2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(右)とEXILEのHIRO

■日本人として エンタメ祭典へ

HIRO 五輪の時期になると本能で応援してしまいますし、愛国心といいますか、日本人だなと感じます。真剣勝負だからこそ生まれる感動や、エネルギーをもらっていました。84年のロサンゼルス五輪からエンタメ色も強くなってきたと思うんですけど、それを見ながら自分も大人になってきているので、五輪はスポーツの祭典でありながら、エンタメビジネスとしても勉強になりますし、いろいろなところで刺激を受けていると思います。

自国での五輪開催に期待を抱きつつ、五輪後にも目を向けている。

HIRO 日本ほど、おもてなしの心があって、街もきれいで、海外の人に優しい国はないと思います。五輪以降に、これまでとは違う産業とかマーケットが育つ感じになると思いますし、すごいチャンスだと思っています。五輪後に関しては、自分たちはアジアや欧米に向けて展開していくのはもちろん、インバウンドも意識しながら、自分たちができることを1つ1つ丁寧にやっていきたいと思っています。25年には大阪万博もあります。さらにエンターテインメントに興味をもってもらったり、子どもたちの夢や選択肢が広がるようなマーケットを作っていきたいと思っています。今はそのターニングポイントだと思うので、五輪はスポーツの祭典ですけど、それがエンターテインメントの祭典のようにつながっていけばと思います。

◆EXILE HIRO(エグザイル・ヒロ)1969年(昭44)6月1日、神奈川県生まれ。90年にZOOのメンバーとしてデビュー。99年に「J Soul Brothers」を結成し、01年にEXILEに。13年末にパフォーマー勇退。02年、LDHの前身となる「エグザイルエンタテインメント有限会社」を設立し、現在LDHのチーフ・クリエイティブ・オフィサー。15年3月に、東京五輪パラリンピック大会組織委員会の文化・教育委員会委員に就任。同12月、文化庁長官表彰。

◆聖火引継式 現地時間3月12日にギリシャ・オリンピア市のヘラ神殿跡で採火され、8日間ギリシャ国内でリレーされた聖火が、ギリシャオリンピック委員会から東京2020組織委員会に引き継がれる儀式。首都アテネのパナシナイコスタジアムで同19日に開催。引継式前に野村忠宏氏と吉田沙保里さんが聖火ランナーを務める。最終ランナー登場前に、ギリシャ側と開催国の文化パフォーマンスが実施される。

<TEAM GENESIS>

EXILEらのライブの企画や演出などを手掛ける「TEAM GENESIS」が演出を担当する
EXILEらのライブの企画や演出などを手掛ける「TEAM GENESIS」が演出を担当する

「東京2020文化パート」の演出を手掛けるのは、EXILEや三代目 J SOUL BROTHERSらEXILE TRIBE(一族)のライブの企画や演出など、クリエーティブな部分を手掛ける「TEAM GENESIS(チームジェネシス)」だ。

アーティストやデザイナーとともに、企画・演出の立案から、音楽、照明、衣装、グラフィック(映像)など各分野まで、世界基準のエンターテインメントを創造してきたクリエーティブチームだ。HIROは「これまでファンの皆さんの反応を含めて、成功や失敗を繰り返しながら作ってきたノウハウが詰まっていて、自分の分身でもあるチームです」。

昨年5月に依頼されてから、企画、構成を含めて、HIROを中心に、チームのメンバーと作り上げてきたが「衣装から何から、全部自社でできるのは、スピード感もありますし、強みだと思います」。

■EXPG12校から小中高140人

今回出演するダンサーは、「EXPG STUDIO」の国内12校の生徒から、昨年11月に行ったオーディションから選出された。小学生20人、中学生100人、高校生20人をはじめ、サポートメンバー含めた216人でパフォーマンスする予定。選抜以降、各地で練習が開始され、同12月に全員そろってのリハーサルを実施。今年に入ってからも、各地で40回以上練習を重ねてきた。

東京校の田中璃莉杏さん(13=中1)は「大きな舞台で踊れることの誇りや驚き、感謝の気持ちでいっぱいです。この貴重な経験や日々は、私の人生の中で一生忘れられない、本当に濃い時間になると思います」。仙台校の鈴木瑠偉さん(12=小6)は「リハーサル以外にも、家などで毎日練習しています。全力で最高のパフォーマンスをするので、ぜひたくさんの方々に見ていただきたいです」と意気込んでいる。