東京五輪・パラリンピック300回連載

世界はいま東京オリンピックをどう見ているのか

新型コロナウイルス感染拡大の影響で来夏へ延期された東京オリンピック(五輪)・パラリンピックが今月23日、再び五輪開幕の1年前を迎える。依然として終息が見通せず、秋以降の第2波も懸念される感染症。国内では逆風も吹く。一方の世界は、どう見ているのか。開催地域として情報量の多いアジアを除き、北米、南米、欧州、アフリカの最新事情や空気感を日刊スポーツ通信員が集めた。【構成=木下淳】

延期直後は苦言も話題はブンデス中心です fromドイツ 鈴木智貴通信員

「IOCバッハ会長の危機管理能力に批判」との見出しで東京五輪延期について伝える3月27日のドイツ紙ツァイト電子版(撮影・鈴木智貴通信員)
「IOCバッハ会長の危機管理能力に批判」との見出しで東京五輪延期について伝える3月27日のドイツ紙ツァイト電子版(撮影・鈴木智貴通信員)

IOCトーマス・バッハ会長のお膝元では、サッカーのブンデスリーガが世界に先駆けて5月16日に再開しました。五輪関連報道は正直、ほとんどありませんでした。あらためて、この国のスポーツメディアはサッカーを中心に追いかけていることが分かりますね。

バッハ会長のインタビューがよく載る一般紙ヴェルトも、5月26日付で久々に「五輪は抗コロナ薬とワクチン次第」と報じた程度。バッハ会長が英BBCに語った「組織委が3000~5000人を雇用し続けるのは無理がある。アスリートを不確実な状態にとどまらせることはできない」「無観客を我々は望まない。ファンとの一体感も五輪精神の1つだからだ」等を引用するにとどまりました。

3月24日の延期決定直後は、バッハ会長への苦言が大半でした。ツァイト紙の電子版は「バッハの危機管理能力に批判」とし、ドイツ社会民主党の女性政治家フライタークさんの「彼は巨大な信頼感の欠如を生んだ。リーダーとしての能力が破綻している」という発言を紹介。ドイツ陸連は新旧会長がそろって資質を否定、来年のIOC会長選の落選も示唆しました。

擁護論もあり、不公平感を訴える選手側の意見もあり、春こそ五輪に関する議論は活発でしたが、最近は関連コメントが淡々と伝えられるだけ。ドイツ・オリンピック・スポーツ連盟(DOSB)が距離の確保や大会再開基準を示した「10の原則」を5月19日に更新し、全16州で段階的にスポーツが再開されたものの、東京五輪に向けた熱気が戻るのは先になりそうです。

コロナと黒人差別問題でもちきりです from米国 千歳香奈子通信員

「USOPCが6月26日から練習施設の使用を認める」とのロイター通信報道を伝える6月18日のニューヨーク・タイムズ電子版(撮影・千歳香奈子通信員)
「USOPCが6月26日から練習施設の使用を認める」とのロイター通信報道を伝える6月18日のニューヨーク・タイムズ電子版(撮影・千歳香奈子通信員)

世界最多の感染者250万人超、12万5000人を超える死者が出ています。米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)が、閉鎖していたコロラドスプリングズとレークプラシッドの施設を6月26日に開放するなど明るい話題もあった一方、経費を最大20%削減するため51人の職員を解雇、33人を休職とする厳しい現状も伝わっています。

五輪中止を訴える山本太郎氏の都知事選出馬などは拾われていましたが、やはり最近は新型コロナ禍と黒人差別問題の話題ばかりです。USOPCハーシュランドCEOの「(東京五輪)中止のシナリオにも備えている」との刺激的な発言(6月18日、ロイター通信)も当地では、ほとんど扱われませんでした。まだまだ五輪どころではない状況です。

5月22日付のニューヨーク・タイムズ紙は「14カ月は五輪開催に十分な期間?」との見出しで、無観客の可能性や予選方式、東京滞在の安全性、延期に数十億ドル(数千億円)を費やす意味を厳しい論調で伝えました。「14カ月は長いようで不透明」とし「多くの国で試合や練習は再開したが、まだ国境は閉じたまま。USOPCの最高医務責任者フィノフ氏が『ワクチン、治療法、集団免疫のどれか(が間に合うとの主張)で五輪開催を楽観視している』と発言したが、彼は感染症学の専門家ではないはずだ」と疑問を呈しました。

さらに最近の6月17日付インディアン・エクスプレス電子版も「1年で東京五輪の開催を確実にするのは不十分」との記事を掲載。「緊急事態宣言が解除されたが、カラオケが規制されているのにスポーツで最高のパーティーである五輪を楽しめるのか」と指摘しました。特に感染リスクが高い場所として選手村を挙げ、数千人が集まる食堂や相部屋、移動バスを懸念。「再延期の可能性もあるのでは」と推察した上で、クリケット界で高名なグロスター理学療法士の「開催したければ、ホスト国には長期にわたる感染者ゼロが求められる」との意見を伝えています。

世界最古の日刊紙である英タイムズなどに寄稿するスウィーニー記者は「ポストコロナでは企業が巨額のスポンサー料を払えなくなる可能性がある。脱スポンサー路線を進めるべき」「純粋にメダルを追い、手にした選手の国歌が流れるだけで十分。IOC(国際オリンピック委員会)は東京五輪をキャンセルし、五輪本来の形に戻す機会とすべきだ」と主張しました。選手については前向きな姿勢を伝える報道が多い印象ですが、五輪自体は問題点をえぐる記事が目立ちます。

日本のフリ見て我が国見直せ?動向を注視です fromフランス 松本愛香通信員

「スリム化すべきマンモス」との見出しで東京五輪の追加経費問題を伝える6月19日付のフランス紙レキップ(撮影・松本愛香通信員)
「スリム化すべきマンモス」との見出しで東京五輪の追加経費問題を伝える6月19日付のフランス紙レキップ(撮影・松本愛香通信員)

パリ五輪は、次回24年の7月26日~8月11日に予定通り開催されることが6月3日のIOC調整委員会で確認されました。「東京五輪の『簡素化』を取り入れたい」と反映する意向も示され、選手村(サンドニ)のベッド数は約1万7000床から1万4000床へ削減。その建設が23年夏の引き渡しに間に合うか心配する声もあります。6月19日付の最大手レキップ紙は「スリム化すべきマンモス」との見出しで東京大会の追加経費問題と簡素化の方針を特集。厳しい論調で「来夏(マスコットの)ミライトワとソメイティに会えるのか?」と。

選手の反応では、4月7日付のユーロスポーツ電子版に柔道リネールのコメントがありました。2月に日本の影浦に敗れて国際大会154連勝で止まったものの「五輪の前で良かった。目を覚ますことができたよ」。その柔道やレスリングは6月6日から相手との接触を伴う通常練習が可能になり、15日には25人の柔道選手とスタッフらが抗体検査とPCR検査を受けました。まず1年後へ再始動といったところでしょうか。

今後の流行が懸念されるアフリカもフランス語圏が多いため調べました。3月に12年ロンドン五輪平泳ぎ金メダリストのファンデルバーグ氏(南アフリカ)が感染。4月にはル・モンド・アフリック電子版が日本の群馬・前橋で合宿中の南スーダン陸上代表を紹介しました。6月14日にはアフリカ国内オリンピック委員会連合(ANOCA)の会議が開かれ、東京五輪への準備とは、ほど遠い状況であることが各国から報告されました。これを受けて選手への6億CFAフラン(約1億1000万円)の追加融資が決定。アフリカ54カ国の感染者数は計20万人超と米国の1割ほどですが、やはり先行きは不透明です。

最後に再びパリ五輪への影響について。4月30日付キャピタル誌は早くも東京五輪中止を仮定し、経済学者プティ氏の持論を紹介。「中止になればパリに不確実さが重くのしかかる。複数スポンサーが出資を思いとどまるかもしれない」と負の連鎖を警戒しました。

6月5日のウエストフランス電子版では組織委のエスタンゲ会長が沈黙を破り「工事費30億ユーロ(約3600億円)と開催費38億ユーロ(約4560億円)の予算超過はない」と疑念の火を消しました。「DNAにも触れない」と大会規模の縮小も否定。経済を再び活発化させる支援を各企業に訴えました。五輪がポストコロナの浮揚の起爆剤となるのか、次の開催国は東京大会の成り行きを注視しています。

感染者数の割に前向きなんです fromブラジル エリーザ大塚通信員

聖地パカエンブー競技場のピッチ上に仮設病院が建つ様子を伝えるプラカール誌20年4月号(撮影・エリーザ大塚通信員)
聖地パカエンブー競技場のピッチ上に仮設病院が建つ様子を伝えるプラカール誌20年4月号(撮影・エリーザ大塚通信員)

死者は5万7000人を超え、感染者は120万人に迫る世界で2番目に深刻な状況です。6月22日にはサッカーの名門コリンチャンスで21人もの集団感染が判明し、その聖地パカエンブー競技場の芝上には現在、仮設の病院が建てられています。

前回16年リオデジャネイロ五輪の開催国ですが、当時も感染症に脅かされました。ジカ熱ウイルスです。開幕直前に150人の専門家がWHO(世界保健機関)に中止か延期を唱えたので政府は恐れていました。結局、期間中にリオ市内では1人も感染者が出ませんでしたが、安全確保への思いは今も同じ。今年3月21日、東京五輪の1年延期を世界で2番目に早く求めたのが、ブラジル・オリンピック委員会(BOC)でした(1位はノルウェー)。

そのテイシェイラ会長が6月13日、リオグランデ・ド・スル州のZH紙の取材に応じ、ポルトガルで代表合宿を行うことを明かしました。「BOCは7月から12月にかけて約200人の選手団を派遣する予定だ。緊急支援措置の1つ。東京五輪に出場するアスリートの航空券代と半年分の宿泊費や食費を負担する」と。

新型コロナ禍について「最悪だが、現実だ」と認めつつ「感染症対策がブラジルより良いフェーズの国を欧州で探し、ポルトガルが条件に当てはまる国の1つと分かった。同国の五輪委と相談して手続きを始めている」。第1段階として12月までは選手の身体的回復を目的として敢行します。

ポルトガルは24年パリ五輪の事前合宿地でもあります。そこに選手団を脱出させ「出入国時の検査を徹底し、地元と協議しながら安全な手順で練習再開できるよう調整中」。国内情勢は厳しく、選手から「本当に来年、東京五輪は行われるのか」との不安も漏れてきますが、既に代表内定している178人の選手とともに、同会長は「東京2020大会は新型コロナから一本(柔道の勝利)を取るはずだ。危機後の最初の世界的イベントは感慨深いものになる」。4年前のホスト国は開催を信じています。

<新型コロナに感染した主な世界のオリンピアン>

◆ノバク・ジョコビッチ

テニス男子=08年北京五輪銅メダル。セルビア

◆パトリック・ユーイング

バスケットボール男子=84年ロサンゼルス五輪、92年バルセロナ五輪ともに金メダル。米国

◆ドナト・サビア

陸上男子=84年ロサンゼルス五輪800メートル5位など。4月8日に死去。イタリア

◆キャメロン・ファンデルバーグ

競泳男子=12年ロンドン五輪平泳ぎ100メートル金メダル。南アフリカ

◆ボグラールカ・カパーシュ

競泳女子=16年リオ五輪800メートル自由形銅メダル。ハンガリー

◆エフサン・ハダディ

円盤投げ男子=12年ロンドン五輪銀メダル。イラン

日刊スポーツが2020年東京五輪・パラリンピックに向けて毎週お届けする300回の大型連載です。ここでしか読めないスペシャルな話題満載です。

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