コロナ禍において6月に開幕、再開したプロ野球やJリーグに続き、秋を迎えてアリーナ競技の新シーズンが次々とスタートした。屋外で行われるスポーツに比べ、屋内競技はより感染リスクを招きやすいとも言われる。団体球技の各リーグはどのようなコロナ対策を講じているか。バスケットボールのBリーグ運営サイドや、バレーボールのVリーグでプレーする選手、ハンドボールの日本リーグ関係者に話を聞き、対策に迫った。

有明アリーナ(2020年2月2日撮影)
有明アリーナ(2020年2月2日撮影)

■Vリーグ

17日に開幕したバレーボールのVリーグでは、今季開催に当たり3つの方針を掲げ準備してきた。<1>入場者数を最大50%に制限<2>リモートマッチ(無観客試合)しかできない状況でも、可能な限り大会開催を優先<3>来場できない人たちのためにも映像配信を充実させる。

大会を成立させる上で鍵を握るのは、選手たちの体調管理。働きながらプレーする選手も少なくなく、関係者は職場に影響が出るのは避けるため、気を引き締めている。

男子1部大分三好ヴァイセアドラーに所属する選手21人中15人は、母体の「三好内科・循環器科医院」(大分市)で医療スタッフとして働く。看護師資格を持っている選手もおり、今や職場で欠かせない存在だ。看護助手を担う主将の米田亘希(26)は、コロナ禍で遠征が多くなるシーズン中は体のケアがより一層求められると気を配る。

普段の米田は人工透析科で週6日午前中勤務し、午後から競技に打ち込んでいる。職場ではお年寄りの患者と接することが多いため「コロナに感染したら、職場にもチームにも大きな影響が出る」。毎朝の検温で37度以上あった場合は、医院長に相談して自宅待機することになっている。

医療スタッフとして働く大分主将の米田(チーム提供)
医療スタッフとして働く大分主将の米田(チーム提供)

シーズン中は勤務日数が週5日に減り、代わりに同僚の負担が増す。米田は「バレー部員が体調不良で欠けたら、勤務は回らなくなる。だからこそ迷惑はかけられません」と語気を強める。日頃からうがい、手洗い、不要な外出を避けた行動を心掛ける。

コロナ禍で迎えた今季のVリーグでは、男子2部と3部の計4チームが関係者の健康安全と業務への影響などを考慮して参加辞退した。苦渋の決断をしたあるチームの関係者は「遠征に行くようになったとき、自覚症状がないままウイルスを職場に運んでしまうようなことは絶対避けたかった」と理由を説明する。

これにより、今季のVリーグは男女計46チームが参加。運営するVリーグ機構では、各チームの選手や審判ら計1600人にPCR検査を月1回実施していく。また、各チームに選手の行動記録や健康チェックシートを付けてもらう。嶋岡健治会長は「各チームにはコロナの感染リスクを抑えるよう徹底してもらいます」。リーグ成立へ全チームの協力が欠かせない。

米田が所属する大分も、遠征中は選手たちに不要な外出は控えるよう求めていく。食事は宿泊先で取るようにするなど外部との接触を極力避け、感染リスクを減らす。

合宿中止や練習試合がなかなかできず例年と異なる状況で開幕を迎えた大分は今季、昨季9位を上回ることが目標だ。今こそスポーツの力が求められる時だと語る主将は「コロナ禍でもバレーボールができるありがたみをかみしめ、応援している人たちを元気づけたい」。コロナ禍の中で、感染防止に細心の注意を払いながら、同僚や患者から受ける期待に結果で応える決意は強い。【平山連】

◆今季のVリーグ 1部は男女共に17日に開幕し、男子は21年4月4日まで。10チームによる4回の総当たり戦後、上位3チームのプレーオフで優勝争いをする。一方、12チームで戦う女子は2月21日まで行われる。2回の総当たり戦後、上位(1~4位)、中位(5~8位)、下位(9~12位)に分かれてトーナメント戦を行い順位を決める。終了後には代表活動に専念する選手以外を対象としたカップ戦が開かれる。

医療スタッフとして働きながら競技に臨む大分主将の米田亘希(右)(チーム提供)
医療スタッフとして働きながら競技に臨む大分主将の米田亘希(右)(チーム提供)

◆米田亘希(こめだ・こうき)1993年(平5)12月14日生まれ、福岡県太宰府市出身。福岡・筑紫台高、立命館大卒業後、コーチに誘われ16年に大分入団。看護助手として週6日受け付け業務や患者の送迎などする傍ら、バレーボールに取り組んでいる。ポジションはアウトサイドヒッター。身長182センチ、体重75キロ。最高到達点344センチ。

■Bリーグ

プロバスケットボール、Bリーグの新シーズンが今月2日に開幕した。屋外競技に比べて感染症対策がより難しいとされる室内競技だが、リーグが定めたガイドラインに基づき、まずは大きなトラブルなく運営されている。観客数は5000人を上限に、収容人数の50%まで。飛沫(ひまつ)感染を防ぐため、声を出しての応援はできない。それでもBリーグ代表理事COOを務める古川宏一郎氏(45)は、複数の会場を視察した上でこう語る。

古川 野球やサッカーと比べ会場サイズが小さいこともあり、想像以上にファンで会場が埋まっていると感じた。声援はないものの拍手の音がアリーナ内に響いた。選手たちは、ファンの前でプレーできる喜びを口にしていた。

試合会場ではさまざまなコロナ対策が講じられた。検温や、各所へのアルコール消毒液設置はもちろん、当日券販売やパンフレット配布を取りやめたり、入場口に制限を掛けた会場もあった。コロナ禍でのリーグ戦運営を可能にすべく、Bリーグは6月に新型コロナウイルス感染対策チームを設置。感染症の専門医を顧問役に迎え、島田チェアマンや古川COOもメンバーの一員として、ガイドライン策定に関わってきた。

古川 選手たちの声を反映し、練習や試合のさいだけでなく日常生活における行動指針も策定している。

全選手やチームスタッフ、審判らを対象としたリーグ独自のPCR検査を開幕前に2度行い、陽性者はゼロ。開幕後も2週間に1度のペースで実施していく。

古川 1年間感染者が出ない保証はないし、完全に防ぐことは難しいとも考えている。ただ、日々の行動に注意していくことは大事だし、その注意を持ち続けていくことが何より大切。

室内イベントの特性として換気対策は不可欠。とはいえ最も肝要な部分は、会場が屋内でも屋外でも変わらないと強調する。

古川 お客様の入場時の体温チェックは大原則。マスク着用や消毒液での除菌、応援で声を出さないことなど、基本的な対応を徹底し、遂行していくことが何より大切になる。

島田チェアマンは「シーズンを全うすることが、東京五輪開催につながる」とかねがね口にする。それは関係者に共通する思いだ。

古川 Bリーグも含め、お客様を入れて開催するさまざまなスポーツイベントで知見を積み重ねていくことが、その先の成功につながっていくと思う。

そのためにもまず、始まったばかりのシーズンを全力で走り抜く。【奥岡幹浩】

○…Bリーグでは今年4月に大阪で、8月にはA東京で感染が確認され、活動が一時休止となった。10月に20-21シーズンが開幕したが、入場者数は収容人数の50%以下、または5000人を上限としている。プロ野球界では感染者がいる中でも、9月中旬から上限5000人を撤廃、入場者数を増やした。Bリーグの緩和措置について島田チェアマンは「望んではいるが、5000人の会場で2500人というのは、感覚的には結構な密。廊下や通路も狭いので、ソーシャルディスタンスも保ちづらい」と慎重な姿勢を見せている。

◆今季のBリーグ コロナ禍の影響を受け、通常の3地区制から2地区制で実施。本来なら1部(B1)と2部(B2)それぞれ18クラブで構成されるが、昨季入れ替え戦を行えなかったことで、今季はB1・20、B2・16クラブによって争われる。またコロナ禍の入国制限によって多くの外国籍選手がチームに合流できない状況を踏まえ、外国籍選手を一定期間追加契約できるなどの特別ルールも導入。

バスケットボールBリーグの古川COO(Bリーグ提供)
バスケットボールBリーグの古川COO(Bリーグ提供)

◆古川宏一郎(ふるかわ・こういちろう) 1975年(昭50)5月11日生まれ。上智大卒業後、2000年にノキア・ジャパン入社。04年に日産自動車に移り、17年よりサッカーJリーグの横浜F・マリノス社長を務めた。19年9月のBリーグ業務執行理事就任を経て、20年1月より同代表理事COO。

■ハンドボール

ハンドボールは「臨機応変な対応」で日本リーグを開催している。開幕はアリーナ競技のトップを切って8月29日。新型コロナ禍が続く中で「見切り発車」と不安視もされたが、日本リーグ機構(JHL)は「ハンドボールを止めるわけにはいかない」(家永昌樹GM)と決断した理由を説明した。

各会場ごとにガイドラインに沿って対策を徹底。自治体の感染状況や会場の状況によって、観客対応を無観客から通常まで4段階に分けている。開幕日の男女計9試合は、無観客が5、観客数制限が3。1試合は感染拡大に危機感を持っているチームからの申し出によって延期となった。

無観客の試合が多い中、ファン対応として本格スタートしたのがJHLによるネット中継。全試合が「JHLtv」でライブ配信されている。試合ごとの細かな対応とネット中継が、コロナ下のリーグを支えている。

◆今季の日本ハンドボールリーグ 8月29日に男子11チーム、女子9チームで開幕。レギュラーシーズンは21年2月末まで行われ、男女共に2回戦総当たりのリーグ戦。その後、3月に各上位4チームによるプレーオフを東京・駒沢体育館で開催する。