今週は五輪競技にまつわる「世界に誇る日本のすごい技」を紹介する。第1回は体操。技名には国際大会で新技を初成功させた選手の名前が付く。日本選手由来も数多くあり、その最新技が跳馬の「ヨネクラ」だ。横向きに跳躍台に着手し、伸身姿勢で宙返りをする間に3回転半ひねる。東京五輪出場に迫る米倉英信(24=徳洲会)が19年2月の国際大会で決めた最高難度の大技で、技の難度を示すDスコア6・0は、現在の跳馬で最も高い。その特徴や技術などを、本人談の8つのキーワードから読み解く。【取材・構成=阿部健吾】
(1)助走
大前提として助走の速さがないと高難度の技はできない。根本ですね。足は体操選手の中で速い方だと思います。50メートルは中3で6秒4。気を付けているのは大股になりすぎないこと。自分の歩幅があり、試合でアドレナリンが出る時は大股になる。1歩が1センチ長くなると、ロイター板(スプリング式の踏み切り板)まで12歩くらいで、約10センチずれる。それだと跳躍台に突っ込んでしまう。」
(2)くの字
ロイター板を蹴る時の体の形が「くの字」になってます。走った勢いで真っすぐに踏もうとすると、頭が前のめりになり、跳躍台に突っ込んでしまう。その帳尻を合わせるために、わざと足を上半身より前に出して踏んでます。この動きをして障害物に下半身だけ当たると、上半身は止まった状態で、下半身と入れ替われる。前に進む力を、上方に転換してます。
(3)鋭角
前の手の右手が台についた時に、肩が鋭角につくのが大事です。近すぎると右手が伸ばせず、遠いと鋭角に入れない。ちょうどいい、跳馬と胸の距離感を意識してます。側転する時は人間は足を開いた方がやりやすいですが、この技は閉じてます。鋭角を意識することで、スムーズに振り上げられます。
(4)ひねり
僕は左回転なので、台で突き放した左腕を引くイメージでひねりを加えていきます。ちょうど縦に1回転した時に、顔だけ前を向いています。3回ひねりの「ロペス」はここまでで1回転すればいいのですが、「ヨネクラ」は1回転半を終える感覚で、顔を前に向けてます。最後に半回転を加えれば良いのでなく、最初の時点で変えてます。このポイントが分かるまで何度も跳びました。腕は締め切らず、隙間はあけてます。最初からぎゅっとすると、それ以上やることがなくなる。遠いところから近いところに持っていった方が、ひねりをかけられる。徐々に締めないと、やることがなくなる。3回ひねるには最初の1回でやりきると、あとの2回で腕を使えなくなるので。
(5)着地
3回ひねっているときに、マットの端、試合ではラインオーバーの黄色い線が見える。初めて視界がはっきりします。見えたら、ここで最後に左肘を引く、というより伸ばして振る。ぴたっと止まったのは、18年から本格的に挑戦し始めて、4月の全日本選手権が練習も含めて初めて。以前は少し斜めを向いて着地していたので、少し動き直して前を向かないといけなかった。いまは正面を向いて降りられるので、止める自信もあります。
(6)命名合戦
技自体は中国選手が15年頃より国内大会で挑戦するなど、誰が初の国際大会成功者になるか、時間との闘いでもあった。米倉は19年2月のW杯メルボルン大会で成功。その1カ月後にはW杯ドーハ大会で梁鶴善(韓国)も決めており、「ギリギリ、危なかった。そこも頑張る力になりました」。
(7)本家
「本家と思われたい。審判も本家と思うと全然違うのでは」と見越す。東京五輪団体代表に決まった橋本大輝らが「ヨネクラ」に挑戦しているが、「もっとやって。売名になる」とにやり。今は成功者は1桁台だが、技系統は跳馬の王道で、「3、4年後にみんなやり出すでしょう。そうなると僕の勝ちです(笑い)」。
(8)東京五輪
4月から個人枠の1枠をめぐる国内選考の最中。全日本、NHK杯を終えて、日本協会独自で設けている獲得ポイントでは、鉄棒の内村航平と並び首位タイ。残るは6月の全日本種目別選手権。「気合入れてやります」。
◆米倉英信(よねくら・ひでのぶ)1997年(平9)5月1日、福岡市生まれ。福岡大体操部だった父信彦さん(61)の影響で、5歳から体操を始める。老司中-岡山・関西高。18年全日本種目別選手権、全日本学生選手権種目別の跳馬で優勝。東京五輪へ種目を跳馬に絞った。155センチ、49キロ。
◆日本人の名前が付いた技 近年では床と跳馬で6個の「シライ」を持つ白井健三が有名。鉄棒では現在の体操界最高となるI難度の評価が付く「ミヤチ」(伸身コバチ2回ひねり)を操る宮地秀享もいる。女子では杉原愛子が決めた平均台のE難度の新技「足持ち2回ターン」が、17年に「スギハラ」と命名された。他に跳馬の「カサマツ」、鉄棒の「エンドー」、平行棒の「モリスエ」など体操ニッポンの中心だった選手の名前が連なる。なお、「ウチムラ」はないが、内村航平は全6種目で高難度技を操れた故だろう。
(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)











