東京五輪へ向け、この秋のロシアでの世界選手権では、選手たちが紙一重の戦いを繰り広げました。9月の男子大会では、ウエルター級の岡沢セオンが準々決勝で欧州王者に惜敗。10月の女子大会でもフライ級の並木月海、フェザー級の入江聖奈がともに準々決勝で敗れましたが、メダルまであと1歩に迫りました。前回のリオ五輪では男子2人の出場にとどまったボクシングですが、東京ではメダルを取れる可能性は十分にあると考えています。

大きいのは12年ロンドン五輪の“遺産”です。男子で村田諒太選手が日本人48年ぶりの金メダル、清水聡選手も銅メダルを獲得しました。今の現役選手はこの活躍を小さいころに見ていた世代が中心です。「日本人でも戦える」。それが自然の感覚で、以前は感じていた世界との実力差を意識することもありません。悪い先入観なく、堂々と海外勢と渡り合えます。

コーチ陣も支えです。昨年から男女のナショナルコーチを務めるウラジミール・シン氏は強国ウズベキスタンの名将です。リオ五輪では母国に金3個を含む最多7個のメダルをもたらしました。海外での合同合宿でも他国の指導者が一目置く存在で、日本選手はその交友関係を見て自信を得ています。指導は厳しいですが、大きな援軍となっています。

代表候補選手たちには今後、夢舞台に立つための戦いが待ちます。東京五輪は男子8階級、女子5階級で実施されます。2月にはアジア・オセアニア予選が中国・武漢で開かれ、男子は4~6枠、女子は4~6枠が与えられます。代表選手は、男子は11月の全日本選手権覇者で8階級、女子は世界選手権出場者と今月の全日本女子選手権の優勝者がプレーオフ(12月8日)を行う3階級と、全日本覇者が2階級で出場します。

日本連盟は昨年は前体制での不祥事が明るみに出て、新体制になり約1年が経過しました。アスリートファーストを第一に、改革を進めている最中です。発足当初は3、4人だった事務局の人数も9人まで増やし、ようやく組織体制が整ってきています。断絶していたプロとの交流も復活し、年末にはジュニア世代の交流大会を初めて行います。

29日からは両国国技館でテスト大会も開催しています。改革を進める中、選手が母国でメダルを獲得してくれたら、これ以上の喜びはありません。(273人目)