グレード2で大川順一郎(60=蒜山ホースパーク/鳥取大乾燥地研究センター)が出場4人馬中トップの得点率63・122で優勝した。パラ馬術を始めて3年だが、東京パラリンピック代表を目指す強化指定選手の宮路満英(63)、吉越奏詞(20)を抑えての初栄冠だった。

音楽に合わせた人馬一体の演技。大川の手綱さばきに芦毛の童夢号が気持ちよさそうに呼応する。力強く、切れがあった。スローな展開から終盤は一気にテンポアップする構成がポイントにつながった。「今までの成績からすればあり得ないこと。現実とは信じられない」。大川はメディアに囲まれても半信半疑だった。

学生時代に乗馬を始め、障害馬術で国体出場経験もある。しかし、高校時代から出始めた黄疸(おうだん)の症状が後にC型肝炎と判明。教職に就き、社会人になってからは慢性的な疲労感に苦しみ、40歳で競技馬術を断念した。13年には夫人から生体肝移植を受けて“第2の人生”をスタートさせたが、17年夏にさらなる試練に見舞われる。封入体筋炎。全身の筋肉が減少していく指定難病だった。

しかし、大川は再び馬に乗り始めた。鳥取県倉吉市生まれ。小学生のころに見たテレビドラマの影響で馬が大好きになって以来、暇さえあれば近くの牧場に足を運んでいた。高校時代に知り合った牧場関係者からパラ馬術を勧められ、病と闘いながら競技を続けることを決断した。

昨年で小学校教員を定年退職し、来月25日には61歳になる。東京パラリンピックの本番会場で強豪を抑えて日本一になった。それでも大川は「私は強化指定はおろか、育成指定にもなっていない。自分の実力は知っています。目指すのは4年後。池江選手と同じパリに出られたらうれしい。次にみなさんとお会いするときは車いすになっているかもしれませんから」。白血病を克服してパリ五輪を目指す競泳の池江璃花子(20)と自らを重ね合わせるように、パリのパラリンピックへの思いを控えめに口にした。そして、杖をつきながら自力で椅子から立ち上がった。

◆パラリンピックの馬術競技 肢体不自由、視覚障がいの選手によって男女混合の馬場馬術として行われる。演技の正確性と芸術性を争い、順位は複数の審判が採点して、その平均点(得点率)で決まる。個人戦の規定(チャンピオンシップテスト)と自由(フリースタイルテスト)に加え、団体戦も実施される。選手は障がいの程度によって5つのクラスに分けられ、数字が小さい方が障がいが重い。個人戦はクラスごとに順位を決定する。