フィギュアスケート日本のエースが最高のカムバックを果たした。右足首故障からの復帰戦で羽生結弦(23=ANA)が完璧な演技で首位発進した。2本の4回転を含む3つのジャンプを成功。自身が持つ世界最高にあと1・04点と迫る111・68点で、66年ぶりの五輪連覇へ王手をかけた。けがから100日となる今日17日にフリーが行われる。
羽生はショパンのピアノ曲にゆったり体を溶け込ませた。最初のジャンプ。高く、美しい4回転サルコーを決めた。得意のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)では満点評価を得た。4回転-3回転の連続トーループも決め最後のスピンを回る時には祝福と称賛の拍手が始まっていた。
リンクから戻った前回五輪王者は、オーサー・コーチと抱き合い「Coming back!」と言った。実戦は昨年10月のロシア杯以来、約4カ月ぶり。ぶっつけ本番とは思えない滑りで111・68点の五輪記録。「久しぶりに皆さんの声援を聞くことができて、帰ってきたんだなと、スケートを滑る幸せな感じを味わえた」。ぬくもりのある言葉が心の中から出てきた。
昨年11月のNHK杯公式練習。4回転ルッツの着氷で転倒。翌朝起きると、患部は赤く腫れ、泣きながら欠場を決めた。大阪市内のホテルにこもり、テレビで他の選手がSPを滑るのを見た。たまらず「フリーだけでも勝てる」と思い立ったが、周囲に全力で止められた。五輪のため、焦る気持ちを抑え、完治してから氷に乗ると覚悟を決めた。本格的な練習を開始したのは1月初め。急ピッチで追い込み、3週間前に3回転、約2週間前に4回転を跳べるようになった。
「3カ月間試合に出られなかったこともあって、非常にスケートが楽しくて」。思いは通算3季滑り込んできたSPに込めた。フリーでは陰陽師(おんみょうじ)安倍晴明の映画「SEIMEI」に4年間の歩みを込める。ソチ五輪ではSP首位もフリーで2度失敗し、悔いを残した金メダルだった。「大きいこと言うなと言われるかもしれないんですけど、僕は元オリンピックチャンピオンなんで、リベンジしたい…」。
15年NHK杯で当時の世界記録を27点も塗り替える合計322・40点をマークし、2週間後のGPファイナルで330・43点とさらに更新した。その2季前と同じプログラム。違うのは新しく備えた4回転ルッツとループ。4回転は3本から4本に増えた。合計歴代最高点も狙える状態で「明日の調子次第でジャンプ構成を決めたいと思います」。けがにつながった高難度のルッツは回避が濃厚。だが、4年間ずっとそれに挑戦してきた羽生は、この日回避した4回転ループを跳ぼうとするだろう。自分自身を超え、66年ぶりの連覇を遂げる。【高場泉穂】