内村航平(27=コナミスポーツ)が大きな口を開けて君が代を歌った。夢にまで見た5人の表彰台。上がる前に「裏返るまで声を出して歌おう」と言った。仲間とともに歌う喜びを、心の底から味わった。「うれしいを超えています」と思い切りの笑顔で話した。

 予選ではミスを連発して4位。「1位通過して最終種目を鉄棒で」の青写真が崩れた。決勝に向けて審判に好印象を与えることもできなかった。最初の種目のあん馬で山室が落下。続くつり輪でも得点が伸びず、2種目終了時で5位と出遅れた。しかし、ここからの日本は強かった。

 跳馬で加藤が15・000点をマークすると、内村が15・566の高得点で続いた。決勝初登場の白井も15・633を出し、この時点でロシアに次ぐ2位に立った。続く平行棒で2点以上あった差を1・3点まで詰めると、次の鉄棒で逆転。1位で迎えた最終種目の床運動は、トップの白井が16・133を出し、加藤も15・466。最後の内村が15・600でまとめ、2位以下を引き離した。

 鉄棒最終演技者としてピタリと着地を決め「アテネ五輪以上の感動を日本中に届けたい」という夢は実現しなかった。それでも、3種目目の跳馬以降はミスなく、すべて15点を超える高得点で演技をつなげた「チームの力」は相当なもの。「アテネは超えられないけれど、僕たちが新しい歴史を作れた」と胸を張った。

 ただ1人全6種目、金メダルのために戦い抜いた。最後の床運動を終えると、両手を膝について肩で息をした。「疲労感しかない」と振り返った。それでも、2日後には連覇を狙う個人総合がある。内村の3度目の五輪は、まだ終わらない。【荻島弘一】