最初は、母節子さんから反対されたそうだ。「どうして(仕事を)辞めるの、って言われちゃいまして」と苦笑いを浮かべた。そう明かしてくれたのは、52歳の大里充氏。8月17~19日まで神奈川・大箱根CCで開催された国内女子ツアー、CATレディースで初優勝を飾った大里桃子(20=フリー)のキャディーを務めた実父である。

学生時代は陸上選手で運動センスは抜群。元中学体育教師で、ハンディキャップは0というゴルフの腕前だ。地元熊本の菊池高原CCで7度のクラブ王者になったという実力者でもある。大里が高校3年になる16年に教師を辞め、専門学校に勤務。今年からは仕事も辞め、娘の専属キャディーとなった。「妻(美弥さん)と、商売をやっている妻の実家から『勝負どころ。娘に(キャディーとして)ついていったら』と言われました。そうしたら、おふくろに怒られまして」。実母の反対を押し切って、キャディーに専念した。

その充氏の決断に、間違いなかった。大里は昨年は1打差に泣いた7月のプロテストに合格。6月末のリランキングでも24位につけ、ツアー中盤の出場権もほぼ手中にしていた。そしてプロテスト合格から23日でツアー優勝。バッグを担ぎ続けた充氏は「うちは1つ1つ階段を上るように、と言ってきたから」と娘を感慨深げにみつめた。

プレー中の父娘はケンカすることが多いという。ショットを曲げれば「いつものことだな」。パッティングでミスすると「小学生みたいなボギーだな」。厳しい言葉を投げかける。「ボクは親子げんかも意味があると思う。親子の掛け合いがね。『みてろよ、おやじ』となってほしい。失敗しないと経験が積めない。ダメ出しして、あえて親子げんかをしむけています」。逆に会場を離れれば、移動時などでゴルフの話題は一切、出さないのがポリシー。厳しい育成手法かもしれないが、娘の強気な性格を知り尽くしているからこその関係にみえる。

充氏が「ゴルフ場で泣くな。練習場で泣け」と教えた通り、初優勝しても大里は涙を我慢していた。優勝会見では「いっぱいケンカするけれど、父にはこれからもずっと(キャディーを)してほしい。仲良くしようと思います」とエールを送った。またCATレディース優勝を願っていたという父のエピソードも明かした「小さい頃から副賞の重機(ショベルカー)をもらったら地元の農道とかを『うちの娘がもらったぞ』って言いながら運転するって言っていました」。

その会見内容を伝え聞いた充氏は照れながらも「はい、そう言いましたね。正夢になりましたよ」と認めた。まだシーズンも中盤戦で、女子ツアーは11月まで続く。地元の熊本・玉名郡南関町で、ゆっくり重機を運転できるのは冬のオフになるだろうか。来季ツアーが始まるあたりに、あらためて重機で農道を運転した感想を聞いてみたい。そう思わせる「ほんわか」した親子タッグだ。【藤中栄二】