「子供たちだけにでもいいですか」-。

渋野日向子(20)は、ふとそう漏らした。女子ゴルフツアー、NEC軽井沢72トーナメント(長野・軽井沢72ゴルフ北C)の第1日。ホールアウト後に大勢のギャラリーが集まり、現場は混乱した。警備員や事務所担当者に囲まれ、クラブハウスに戻ろうとした時のことだった。フィーバーは収まる気配すらなく、1人、1人にサインや握手に応じれば練習時間が取れなくなる。ファンを大事にする彼女は、子供だけを呼んで色紙にサインをした。

プレー中にも、同じような光景があった。9番ホールでは「サインを下さい!」とちびっ子に求められ、ボールに書いて渡した。

「子供に言われたら、私は断れないですよ。押しに弱いのかな? どうなんでしょうね。人によりますけどね。でも、子供は大事にしたいです。子供が好きなので」

渋野を含め、98年度生まれの黄金世代は、かつて世界ランク1位になった宮里藍さんに憧れ、ゴルフを始めた選手がほとんど。男子に比べ、女子ゴルフは人気があるとはいえ、宮里さんが17年にツアープロを引退した後は、子供が憧れるスター選手が不在になった。笑顔で、駄菓子を食べながらプレーする渋野はまさしく、子供にも、じいちゃんばあちゃんにも、親しみやすい存在。日本ゴルフ界が求めていた救世主なのだ。

ゴルフの競技人口は年々、減少気配だという。それでも、夏休みの会場には、普段のツアーよりも子供の姿が多く見られた。

ただ強いだけではない。みんな、笑顔で優しい「しぶこ」が見たいのだ。【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

16日、ホールアウトし、子供たちに笑顔でサインをする渋野(撮影・加藤諒)
16日、ホールアウトし、子供たちに笑顔でサインをする渋野(撮影・加藤諒)