西の空へ、日が沈んでゆく。山肌を照らした夕暮れのきれいなオレンジ色も、そろそろ薄れつつあった。

会場の後片付けをする軽トラックのヘッドライトが時折、グリーンを照らす。周囲は暗くなり、ボールは見えなくなっていた。それでも、渋野日向子(20)は、練習をやめようとはしなかった。

9月12日に、兵庫・チェリーヒルズGCで開幕した女子ゴルフの今季国内メジャー第2戦、日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯。第1日を2アンダーの11位で終えた彼女は、最後まで残ってパットの調整を続けた。もう、選手はほとんどいなくなっていた。

青木コーチが置くボールを打つ。5~6メートルのパットを外すと、悔しそうに頭を抱えた。それが入るまで、練習は終わらない。ちょうど日が完全に沈む頃、ようやく長いパットが入り、いつもの笑顔を見せた。

「やった~。終わった~」

昨年の今頃は、下部ツアーでもがいていた。観衆も、報道陣もまばら。あれから1年が過ぎ、この日は大勢のファンが、渋野の練習を最後まで見守った。5月に国内メジャーを制し、8月には全英女王となり、環境は劇的に変わった。それは、努力のたまものである。この日は午前11時40分とスタート時間が遅かったとはいえ、誰よりも練習をする。だからこそ、誰よりも早いスピードでここまで上り詰めた。

真っ暗になった会場には、まだ大勢のファンが待っていた。混乱を避けるために、一度はクラブハウスに戻った。だが、応援してくれる人々へ、後ろ髪が引かれる思いがあったのだろうか。しばらくしてから出てくると、全員にサイン入りのカードを手渡した。強くなっても、おごらず、誰にも優しい。それが人気の秘訣(ひけつ)だろう。

時計の針は午後7時を過ぎていた。汗だくで練習を終えた彼女は、運営スタッフ、報道陣らに「帰りま~す」と笑顔で手を振った。

「腹が減っちまったよ~」

どこまでも愛されキャラの渋野らしかった。【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯 第1R 11番でバーディーを決め拍手を受ける渋野日向子(撮影・清水貴仁)
日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯 第1R 11番でバーディーを決め拍手を受ける渋野日向子(撮影・清水貴仁)