F1日本GP過去の歴史

【1993年10月25日付本紙より】

セナ神業! 雨脚強い中でプロスト抜く!

 ◇10月24日◇三重・鈴鹿サーキット(一周5・86403キロ)◇決勝(53周)◇参加24台(完走14台)◇晴れのち時々雨(気温16度)◇観衆15万1000人

 アイルトン・セナ(33=マクラーレン・フォード)が、宿敵アラン・プロスト(38=ウィリアムズ・ルノー)を抑え今季4勝目(通算40勝目)を挙げた。豪雨の21周目、トップを走るプロストを一気に抜き去り、そのまま最後まで独走、日本GP5年ぶり2度目の優勝を飾った。鈴木利男(38=ラルース・ランボルギーニ)は12位。鈴木亜久里(33=フットワーク無限)、片山右京(30=ティレル・ヤマハ)はリタイアした。

危機覚悟の賭け

 トップを走るプロストの背後に、セナがピタリとつけた。21周目のバックストレート。15周目から突然降り出した雨で、路面は鏡のように光っている。雨脚がさらに強まった。その瞬間をセナは見逃さなかった。思い切りアクセルを踏み込んだ。水しぶきを巻き上げながら、プロストの右側をすり抜けた。

 レーンタイヤには交換していない。当然、アタックをかければスリップの危険が伴う。しかし、計り知れないリスクを承知で、セナはあえてかけに出た。雨になればマシンの性能よりもドライバー技術がレースの比重を占める。「車に問題はない。あとはいかにコントロールできるかだ」。自らのハンドル技術への絶対的な信頼が勝負を決めた。意表をつくアタック。そして視界を遮る嵐のような水しぶき。一瞬、視界を失ったプロストを、セナは一気に突き放す。10秒、20秒……。31周目には31秒の大差がついた。一瞬がレースすべてを決めた。超一流を通り越し、神業ともいえるカン、技術、勇気。「もう最後はヤツの実力を認めて楽しく走ったよ」。プロストもただ笑うしかなかった。

 セナの決勝での戦いは、実は前夜から始まっていた。2番手、インからのスタート地点に歩いて出向き、路面状態を入念にチェックした。鈴鹿では過去6度も走っている。インスタートも1990年に経験済みだ。一流ドライバーならば、改めて確認はしない。しかし、セナはこの日のフリー走行で、3度もこの地点を走って路面をチェックした。

 決勝スタート。ポールポジションのプロストを抑えて出た。ピットインする13周まで予定通りトップを走り続けた。「スタートは重要なんだ。ここのコースは路面が荒れている。だから、レース前に確認したんだ」。このレースでセナはち密な準備の必要性を改めて説いてみせた。

 因縁のセナ・プロ対決はセナの圧勝だった。だが、今季で引退を表明しているプロストも最後に意地を見せた。最終53周目。既にセナの背中は見えない。だが、あえて猛アタックをかけた。1分41秒176。この日の最高ラップでゴール。ライバルに王者としての意地をしっかりと意識させた。

 二人は相変わらず表彰台でも、そして合同記者会見でも視線すら合わせようとしなかった。だが、確執が始まった6年前とは、心の中は明らかに変わっている。「なぜセナとケンカしたのか今となっては分からない。最後のオーストラリアGPでは言葉を交わしたい」(プロスト)、「多分ね」(セナ)。日本GPでの“セナ・プロ対決”に最後の、そして新しい一ページが刻まれた。【首藤正徳】


セナ場外乱闘事件「アーバイン許せん」

 レース終了後、セナがアーバインに殴りかかる場外乱闘事件が起こった。F1初参戦で過激なドライビングのアーバインに、セナが怒ったもの。周回遅れやオーバーテークするマシンに対して、アーバインがラインを譲らなかったことがレース審議委員会でも問題になったが、結果は無罪。怒りの収まらないセナが「危険な走行は許せない」と抗議したが、アーバインがノラリクラリとしたため胸ぐらをつかんでの大ゲンカとなった。


初陣アーバイン6位

 エディ・アーバイン(27=ジョーダン・ハート)がF1初出走で見事6位入賞を果たした。「うれしいけど、すごく喜んでいるわけじゃない。ピットインがスムーズにできれば20秒は縮められた」と、快挙達成にも冷静に分析。これで来季のF1フル参戦も現実化してくるが、「F3000でもベストなチームだし、ポールの確率は50%ある。日本に残っても、F1にいってもハッピーさ」と、すっかり自信をつけた様子だった。


鈴木利男「少しF1が分かった」

 F1初挑戦の鈴木利男が日本勢ただ一人の完走を果たした。14台中、12位ながら「完走は第1目標だったし、50点の出来」と、スタンドから沸き起こった「トシオ・コール」にニッコリ。8周目にはバックミラーを見ていてシケインでスピン。豪雨で各マシンがピットインすると「雨で中止かな」など、ルーキーならではの失敗も重ねたが「少しF1が分かった。次の豪州(GP)では攻めてみるよ」と、意欲を燃やしていた。


鈴木亜久里、13周目には5位も

 13周目に5位へ浮上して3年ぶりの表彰台の期待がかかった鈴木亜久里だったが、29周目にあえなくリタイアした。前半の快進撃も15周目から降り出した豪雨にリズムが崩れて順位が降下。盛り返そうと焦った29周目、第2コーナーで単独スピンして万事休す。「いい感じだったのに残念。雨がなければね……」と、無念のリタイアにふさぎ込んでいた。


片山右京「ガラガラ音がした」

 今季最高の13番グリッドからスタートした片山右京は27周目のエンジントラブルで終わった。「ガラガラって音がしてエンジンがストップ。何が何だか分からない」と、突然のトラブルにガックリ。「完走したかったのに、すみません」。昨年の11位完走から1年、成長のあかしを見せる舞台は、今季の不調を象徴するレースとなった。


順位 ドライバー チーム・エンジン タイム
1 A・セナ マクラーレン・フォード 1時間40分27秒912
2 A・プロスト ウィリアムズ ・ルノー 1時間40分39秒347
3 M・ハッキネン マクラーレン・フォード 1時間40分54秒041
4 D・ヒル ウィリアムズ・ルノー 1時間41分51秒450
5 R・バリチェロ ジョーダン・ハート 1時間42分03秒013
6 E・アーバイン ジョーダン・ハート 1時間42分14秒333
7 M・ブランデル リジェ・ルノー 1周遅れ
8 JJ・レート ザウバー・イルモア 1周遅れ
9 M・ブランドル リジェ・ルノー 2周遅れ
10 P・マルティニ ミナルディ・フォード 2周遅れ
11 J・ハーバート ロータス・フォード 2周遅れ
12 鈴木利男 ラルース・ランボルギーニ 2周遅れ
13 P・ラミー ロータス・フォード 4周遅れ
14 D・ワーウィック フットワーク・無限ホンダ 5周遅れ
  R・パトレーゼ ベネトン・フォード 46周目リタイア
  G・ベルガー フェラーリ 41周目リタイア
  鈴木亜久里 フットワーク・無限ホンダ 29周目リタイア
  片山右京 ティレル・ヤマハ 27周目リタイア
  J・グーノン ミナルディ・フォード 27周目リタイア
  K・ペンドリンガー ザウバー・イルモア 26周目リタイア
  E・コマス ラルース・ランボルギーニ 18周目リタイア
  M・シューマッハー ベネトン・フォード 11周目リタイア
  J・アレジ フェラーリ 8周目リタイア
  A・デ・チェザリス ティレル・ヤマハ 1周目リタイア
1位の平均時速は185.612キロ
最速ラップはプロストの1分41秒176(53周目)平均時速は208.650キロ
タイヤは全車グッドイヤー


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