2020年東京五輪・パラリンピックで若者文化を意識し、サーフィンやスケートボードなどが初めて実施される。そこで注目されるのが「アーバンクラスター構想」。直訳すると「都会風の会場群」で、若者の五輪離れを危惧する国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会は、最先端でファッショナブルな会場や見せ方を提供したい考え。組織委の室伏広治スポーツ局長(43=アテネ五輪陸上ハンマー投げ金メダル)に話を聞くと、見えてきたのは「フェス」のような会場だった。【荻島弘一、三須一紀】


■室伏スポーツ局長「目指す」革命会場

9月、南カリフォルニア大のグローバルカンファレンスでトークイベントに参加する室伏氏(撮影・山崎安昭)
9月、南カリフォルニア大のグローバルカンファレンスでトークイベントに参加する室伏氏(撮影・山崎安昭)

 スケートボード、スポーツクライミングは東京・青海アーバンスポーツ会場で開催予定。3人制バスケットボール、自転車BMXフリースタイルも東京・臨海部の方向で調整中だ。これらの若者系競技を分散させず、臨海部に集中させて開催し、有機的に連動させたい考えだ。

 3人制バスケを除いたこれらの競技は「エクストリームスポーツ(Xスポーツ)」と呼ばれる。有名な国際大会に「Xゲーム」や「FISE(エクストリームスポーツ国際フェスティバル)」があり、立ち見席が中心で、各競技を自由に見て回れる仕組みが多い。組織委も両大会を参考にしている。そこにはオシャレなDJが大音量の音楽で盛り上げ、人々が「ノリノリ」で歓声を上げる。まさに「五輪フェス」の様相だ。整然と観客席に座って観戦していた従来の五輪とは180度違った試みとなる。

 千葉・一宮町のサーフィン会場では、自然の波での競技会となるため、環境と健康を意識したプログラムで観客が楽しめる内容も検討。同県、同町と協力し、こちらもフェス構想を立てている。室伏氏をはじめ、組織委の職員は国内外の大会を実際に視察している。


 なぜこうした若者文化を取り入れるのか―。昨今、大会予算の高騰で、次々と立候補都市が辞退。24年大会の立候補がフランス・パリと米ロサンゼルスだけになり、無選挙で24年をパリ、28年はロサンゼルスと分け合う異例の事態となった。この先、立候補する都市が減り続ければ、五輪は存続危機となる。IOCは若者文化との融合で、この危機的状況を好転させるきっかけとしたい考えだ。

 室伏氏は「五輪は『ある限られた特別な関係者だけが参加する』というイメージを持つ人がいるようだ。そのような風潮を嫌う若者も少なくないと聞く」と話す。Xスポーツなどを導入、成功させることにより、「五輪がより包摂的な社会として、若者が活躍できる場を提供したい。老若男女を巻き込む場にしていき、多くの方が関われる五輪・パラリンピックを目指したい」と熱い思いを語った。

 「アーバンクラスター」では、競技が行われない日に会場を開放し、観戦客が競技を体験できる仕組みも検討中という。ただ、1会場に複数の競技があり、チケットや入場料の取り扱いに課題もある。

 一方でスケートボード、サーフィンの国内競技団体(NF)関係者は「予算やセキュリティーの面で組織委は慎重」とも話す。もともとフェス化はIOCの意向だといわれ、IOCと話し合いを続けている国際サーフィン連盟(ISA)アギーレ会長は「サーフィンがオリンピックを変える」と自信を見せている。

 その意を受けて、室伏氏も「東京大会は今後の五輪に新しい価値を生み出すロールモデルになるだろう」と話す。IOC、NF、組織委スポーツ局の意向は一致。あとはコストやセキュリティーの課題をいかに解決し組織委全体として「GOサイン」を出せるかだ。


 室伏氏は小中学生時代、米カリフォルニア州に住んだ経験があり、スケートボードをやっていた。「その頃、スケボーが五輪競技だったらハンマー投げをやることはなかったかも(笑い)」と話すほど好きだった。

 スポーツへの興味が薄い人でも、音楽、ファッション、空間、デザイン、食事なども楽しめれば「行ってみようかな」と思える。まさに大勢の若者が集う「五輪フェス」が成功すれば五輪そのものの人気回復、大会の永続へとつながっていく。50年後、100年後、「TOKYOがターニングポイントだった」と言われる「革命」を起こそうとしている。


7月のサーフフェスティバル「ムラサキ湘南オープン」
7月のサーフフェスティバル「ムラサキ湘南オープン」

<「アーバンクラスター構想」試み各地で実施>

 日本国内でもさまざまな「スポーツフェス」が開かれ、組織委も視察に訪れている。9月、宮崎でサーフィン世界ジュニア選手権が開催。ISA主催大会は日本で27年ぶりだった。五輪サーフィン開催を意識し、競技だけでなくサーフィンの文化的側面もアピールする大会だった。

 会場は東京五輪を意識して設営。ステージが併設され、ロックバンドから伝統芸能まで披露された。ステージを囲む形で屋台が並び、ビール、ジュース、チキン南蛮、おにぎりなどを販売。日本文化を紹介するブースもあり、外国人選手を対象にお茶や着付けなども紹介していた。

 組織委の布村幸彦副事務総長は大会前半を、室伏氏は終盤2日間を視察し、ISAアギーレ会長とも突っ込んだ話し合いをした。室伏氏は「競技だけでなく、音楽、伝統文化の紹介、飲食の出店があり、人が集まる空間がある。文化を含めて受け入れることは、我々の考えとも一致する」と評価。米西海岸で育ったこともあり「この雰囲気は分かるし、フェスは好きですね」と笑顔で話した。

 東京五輪のサーフィン会場となる千葉・一宮町の馬淵昌也町長も視察し「参考になった。多くの人が集まる場にしたいし、音楽もやりたい、伝統芸能も紹介したい」と語った。

 7月に神奈川・鵠沼海岸で行われたムラサキ湘南オープンは、世界最大のサーフフェスティバル「USオープン(米カリフォルニア)」を模した国内最大級の大会。サーフィン、スケートボードの他に音楽イベントも行われ、多くの出店が並んだ。組織委職員12人が視察。夏場の海岸沿いという面で「アーバンクラスター」の参考になる大会だった。