東京オリンピックの中心は、若者を引きつける都市型新スポーツだ-。日本初の本格的なアーバン(都市型)スポーツの祭典、FISE広島大会が広島市民球場跡地で行われた。日本スポーツ界の常識を覆す大会に、視察した東京大会組織委員会の森喜朗会長(80)は「これが東京五輪の中心になる」と発言。開催に尽力した日本アーバンスポーツ支援協議会(JUSC)の渡辺守成会長(59)は「江戸時代の日本スポーツ界を変える黒船だ」と言い放った。【荻島弘一】

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 多くの人が入った8日、森会長は選手たちのパフォーマンスに見入るファンたちの間を縫い、丹念に会場を視察した。子どもたちに「楽しい?」「どこから来たの」と声をかけて回る。初めて「体験」するアーバンスポーツの祭典に興奮気味。「これが東京五輪の中心」と満足そうに話した。

 おおげさではない。今大会で行われたBMXフリースタイル、スケートボード、ボルダリング(スポーツクライミング)は、東京で新たに加わる五輪種目。青海と有明の会場は「アーバンクラスター」と呼ばれる特別な場所で「人が集う場」として大会の目玉になる。

 森会長が感動したのは、体験コーナーでスポーツに興じる子どもたちの姿だった。「みんな楽しそう」「ボルダリングで登れずに泣いていた子もいた」。トップ選手を見て、自分たちも体を動かせる。この大会は入場無料。「東京五輪でも入場料は考える必要があるな」とも言った。

 ファンの声援を受けて伸び伸びとパフォーマンスをする選手たちにも「楽しそうでいい。コーチとの関係などで悩むこともなさそうだ」。五輪で長く行われている伝統的な競技に対して「古いスポーツはダメ」と言い切り「こういう大会や場所が増える」と普及に期待した。「たくさんのヒントをいただいた。来て良かった」。森会長は盛り上がる会場の向こうに、2年後の東京五輪を見て言った。


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 異様な光景だった。かつてプロ野球の伝説が生まれた広島市民球場で、スポーツの未来が見えた。JUSCの渡辺会長が「黒船」と称したFISE。これまでのスポーツしか見てきていない世代には、すべてが新鮮に見える。伝統的なスポーツ界の「常識」は、ことごとく打ち砕かれた。

 (1)観客席? 一部の有料席以外は、すべて立ち見。ボルダリングからBMXと自由に動き回る。疲れたら屋台で肉やカキを食べ、子どもたちは体験コーナーのトランポリンで遊ぶ。響き渡る音楽が歓声と拍手で消える。昨年5月、モンペリエ大会を初めて見た渡辺会長は「なんじゃこりゃ、って思った」。選手も自由、ファンも自由、これまでのスポーツ観戦ではありえない特別な空間だった。

 (2)結果? 採点競技の観戦で最も興奮するのは得点発表の瞬間。掲示板に出る得点を見てファンは大歓声を送る。が、FISEは違う。目当ての選手のパフォーマンス後は次へ。結果が出るのも、時間がかかる。DJがフルボリュームで紹介しても、聞き取れないこともある。選手やファンが勝ち負け以上にこだわるのは中身。パルクールのZENも「勝ち負けはどうでもいいという面はある」という。結果だけを追い求めるスポーツではない。

 (3)新聞? テレビや新聞のメディア対応は重視されない。もちろん、担当者は一生懸命だし、慣れていない面もある。が、渡辺会長は「実は(FISEを主催する)ハリケーン社と話した時『新聞? テレビ? 必要か?』といわれた」と明かす。大会情報の発信はSNSが主だ。

 「集客できるのか」という懐疑的な目もあった。しかし、1日目が雨で中止になったにもかかわらず8万5000人が訪れた。目標「10万人」とぶち上げた渡辺会長も「こんなに来てくれるとは驚いた」。もっとも、JUSC太田雄貴副会長(32)は「成功すると思っていました」と若い感性で言った。スポーツ界は変わりつつある。FISEと東京五輪が、流れを加速させるのは間違いない。


 ◆FISE(フィセ) エクストリームスポーツ国際フェスティバル。97年にフランスで始まり、03年から世界シリーズが行われている。昨年から国際自転車競技連盟(UCI)W杯になったBMXフリースタイル、今年から国際体操連盟(FIG)W杯として行われるパルクール、スケートボード、アグレッシブインライン、ウエークボードなどが行われる。今季は初開催の広島大会を皮切りに全5戦。プロに特化した大会としてはXゲームが有名だが、FISEはジュニアカテゴリーやアカデミーなど教育にも力を入れる。